頭痛 脳・脳疾患

専門医が教える「頭痛」の正しい対処法③~市販薬ばかりに頼ると「薬物乱用頭痛」も

専門医が教える「頭痛」の正しい対処法③~市販薬ばかりに頼ると「薬物乱用頭痛」も
病気・治療
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片頭痛になると、体を動かすことができないほど症状がひどくなることがある。一方、頭を鎖で締め付けられるような痛みの「緊張型頭痛」もある。

「緊張型頭痛は、国内では約2000万人の患者数が推計され、ストレスとの関係が深い。片頭痛のように寝込むことは少ないものの、毎日のように頭痛が起きて、肩こりなどの症状が強い方もいます」

こう説明するのは、湘南慶育病院(神奈川県藤沢市)の鈴木則宏院長。頭痛外来で数多くの患者を救っている。

「頭痛といってもいろいろな種類があります(別項)。緊張型頭痛のように日常生活に支障がない症状でも、二次性頭痛が隠れていることがあるので注意が必要です」

たとえば、頭が締め付けられるような痛みで、市販の消炎鎮痛剤を服用したとしよう。本来、緊張型頭痛なら、服用後しばらくすると痛みが和らぐ。ところが、消炎鎮痛剤を服用しても頭痛が治まらない。この症状のときには、「脳腫瘍」が潜むことがあるという。

「脳腫瘍は頭蓋骨の中にできる新生物の総称です。脳腫瘍で神経細胞や血管が圧迫されることで、緊張型頭痛のような症状を引き起こす場合があるのです。加えて、『しゃべりにくい』『手足の感覚障害』など、頭痛以外の症状も伴いやすいといえます」

脳腫瘍は命に関わる事態につながるので注意が必要だ。頭を鈍器で殴られたような痛みを伴う、くも膜下出血もしかり。これまで感じたことがない頭痛に見舞われたときには、迷わず医療機関へ受診を。症状がひどいときには救急車を呼ぼう。

「50歳以上のこめかみ付近の頭痛は、『巨細胞性動脈炎』という難病指定の病気でも起こります。動脈の炎症によって、こめかみ部の動脈(側頭動脈)が腫れて頭痛につながるのです。悪化すると失明するリスクがあるので注意が必要です」

巨細胞性動脈炎の原因はよくわかっていない。リウマチ性多発筋痛症という全身に痛みを引き起こす病気が合併することがある。頭痛だけでなく、肩や太もも、腰などの筋肉がこわばって痛みを感じるという。

「巨細胞性動脈炎は、ステロイドの治療でよくなります。ただし、診断が難しいのです。こめかみの痛みや肩こり、腰痛はありがちな症状だからです。放置してはいけない頭痛があることを覚えておきましょう」

少々、頭が痛くても、市販の消炎鎮痛薬を服用して済ますことがあると思う。脳腫瘍などの二次性頭痛は、消炎鎮痛剤では症状は治まりにくいため受診することになるが、片頭痛や緊張型頭痛は、市販薬でも治ってしまう。そこにも落とし穴がある。

「自己判断で消炎鎮痛薬などを使用し、薬によって引き起こされる薬物乱用頭痛へ移行する方もいます」

市販薬ばかりに頼っていると「薬物乱用頭痛」につながりかねないのだ。

おもな頭痛の種類

【片頭痛】
片側の側頭部(両側のことも)が拍動を打つように痛む。体を動かすと痛みが増す。月経や更年期など女性ホルモンの変動にも関わる

【緊張型頭痛】
頭全体が締め付けられるように痛む。パソコン作業など同じ姿勢を長時間続けることで起こりやすい。肩こりを伴うのが一般的

【群発頭痛】
側頭部や目の奥に激痛を引き起こす。痛みは数分から数時間続き、1~2カ月連日繰り返される。体内時計の乱れと関係している

【二次性頭痛】
くも膜下出血や脳腫瘍など、脳の病気で頭痛が引き起こされる。命に関わる事態ゆえに救急搬送が不可欠

「健活手帖」 2023-03-24 公開
解説
湘南慶育病院院長
鈴木 則宏
湘南慶育病院院長。慶應義塾大学名誉教授。1977年、慶應義塾大学医学部卒。スウェーデン・ルンド大学医学部留学、北里大学医学部診療教授などを経て、2004年、慶應義塾大学医学部教授に就任。頭痛、パーキンソン病、脳血管疾患を専門とし、同大病院副院長などを経て2018年から現職。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。