国内で約840万人と推計される「片頭痛」は、脳の画像診断では異常はないが、一度発症すると何度も繰り返す慢性頭痛だ。その痛みは激烈ゆえ、治療薬での正しい対処が望ましいが、受診率は半数程度といわれる。なぜ医療機関を受診しないのか。
「片頭痛は重症のことが多く、身体を動かすと痛みが増すため、患者さんは受診したくてもできないのです。4~72時間で症状が治まった後に受診しても、診断されないことがあるのも問題です」
こう話すのは、湘南慶育病院(神奈川県藤沢市)の鈴木則宏院長。「頭痛外来」で多くの患者の診断・治療を行っている。
たとえば、片頭痛の人は、身体を動かすと症状がひどくなるので、症状が治まってから自宅近くの病院へ行くことが多い。脳の状態を調べるCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像法)の画像診断、血液検査の結果は「異常なし」。このようなことが片頭痛では起こるのだ。医師から「様子を見ましょう」といわれて患者は打つ手なし。数週間後、再び激しい片頭痛に襲われても、「病院では治らない」と思い、市販薬を買い込み、自己流の対処法に走る人がいるのだ
「片頭痛の患者さんは、①頭痛が起こったときに医療機関へ行けない、②片頭痛の診断が必ずしも適切でなかったことから、受診率が低いのです。かつては今より低かった。現在、新しい治療薬が登場したことで、治療は受けやすくなったと思います」
片頭痛の診断は、日本頭痛学会(ネットで日本頭痛学会を検索)の「認定頭痛専門医」であれば、適切に行うことができる。治療薬は、片頭痛の代表的な薬「トリプタン」に加え、「ラスミジタン」が昨年新たに承認された。予防効果の高い「抗体医薬」の注射薬も登場(別項参照)。
「片頭痛の患者さんの約2割には、視界にギザギザとした光が見える閃輝暗点(せんきあんてん)の前兆があります。また、低気圧が近づくと片頭痛が起こるなど、患者さんによって発症しやすい時期のパターンがあります。そのパターンを『頭痛ダイアリー』で把握し、薬を適切に使うことが大切です」
頭痛ダイアリーは、日本頭痛学会のホームページからダウンロードできる。頭痛の起こった時間帯、頭痛の強度、使用した薬と効果、日常生活への影響、頭痛の引き金と考えられる天気、寝すぎ、外出なども記載する。
「頭痛ダイアリーがあると、薬の服用の適切なタイミングや、発症しやすい状況の回避なども行いやすくなります。医療機関へ受診するときにも、持参することで診断がつきやすくなります」
つらい片頭痛にひとりで悩むことなく、適切な治療で身体を楽な状態に近づけよう。
片頭痛の治療薬
【トリプタン】
セロトニンという神経伝達物質に作用し、血管を収縮させるなどして片頭痛などで効果を発揮する飲み薬。現在「スマトリプタン」「ゾルミトリプタン」「エレトリプタン」「リザトリプタン」「ナラトリプタン」の5種類がある
【ラスミジタン】
トリプタンとは薬理作用が異なる飲み薬。「レイボー錠」が2022年に承認された
【抗体医薬】
片頭痛に関係するCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質を阻害し、片頭痛の発症を抑え、予防効果が期待できる注射薬。「エムガルディ」「アジョビ」「アイモビーグ」の3種類が2021年に承認された
【予防薬】
カルシウム拮抗薬、β遮断薬、抗てんかん薬、抗うつ薬が以前から処方されている