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肥満は「怠惰な人がなる」は大間違い

肥満は「怠惰な人がなる」は大間違い
予防・健康
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肥満とは、ただ単純に体重が平均値より重いだけではなく、体脂肪が過剰に蓄積した状態だ。BMI(体格指数)でいうと日本では25以上を指し、放置すると高血圧や高血糖(糖尿病)、脂質異常など、いわゆる生活習慣病の指標となる数値が上昇する状態だ。

新型コロナウイルス感染症との関係でいえば、基礎疾患をもつ人は重症化リスクが高いことはご存じだろう。この基礎疾患に、BMI30以上の肥満が含まれる。

肥満と肥満症は地続きだが、治療が必要な「肥満症」はBMI25以上で、かつ「肥満」に起因ないし関連し、減量を要する健康障害があるか、または内臓脂肪蓄積がある場合に診断される。欧米などではBMI30以上が肥満とされ、25以上は「過体重」とされているが、アジア人は欧米人よりも肥満による健康リスクが高いためにこのような指標になっている。

ところで、肥満(症)や生活習慣病(高血圧症や糖尿病など)は、食欲を抑制できない意志の弱い人、運動をしたがらない怠惰な人がなるもの、というイメージはないだろうか。

世界肥満デー(3月4日)に寄せて、日本肥満予防協会執行理事で女子栄養大学特任教授の津下一代医師の話を聞いた。

「ご存じのように肥満にはいろいろな要素が関わっています。たとえば食事や遺伝などの生物学的な背景、そして環境、仕事の仕方、睡眠や精神的な健康などさまざまな要因が関わっています」

同じようなものを同じ量食べて同じくらいの運動量でも、ある人はスリムでもある人は体重が増えることはよくあることだ。食生活が乱れても、影響を受ける人もいれば受けない人もいる。米国ではかつて「肥満の人は出世できない」と言われていた。自分の体重も管理できない人は仕事もできないと考えられていたからだが、それは昔の話。今ではそうした偏見が、肥満改善や治療への道を閉ざすとして、肥満症である本人だけでなく、そうでない人の意識変革も求められている。

「ある肥満症患者さんには、食生活が乱れているという現実はあるかもしれません。けれどもそれで意志が弱い、やる気がない、無関心だと決めつけてしまう見方が、肥満症患者さんの行動にブレーキをかけているかもしれません。患者さん本人が劣等感を持つ、あるいは誰かに言われるということもあります。世間はもちろん、医師までも肥満症の人を否定的にとらえていると感じると、助けを求めないことにつながってしまいます」

食べ過ぎてしまう人や運動が嫌いな人でも、そこに食べ物がなかったら、そこに車がなかったら、肥満にはならない。江戸時代の人や、現在でも一部の低所得国家において肥満が少ない理由はこのためだ。また、出張や留学で米国に1年以上滞在した人がふっくらして帰ってくることも。そのため、個人の性格や体質だけではなく、現代の環境、暮らし方の中にある、自分自身が決めていないけれどもそうなってしまう要因が非常に大きいと津下教授は話す。

「肥満になることを個人のせいにせず、社会としてどう取り組めるか、を考えていかなければいけないと思います」

そして現在、肥満症の人は、一人一人違う原因や治療・管理を専門医とともに考え、健康リスクを減らしていってほしい。

「健活手帖」 2023-03-13 公開
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。