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腎臓病でも野菜や果物を全く食べないのはNG

腎臓病でも野菜や果物を全く食べないのはNG
病気・治療
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慢性腎臓病(CKD)といえば、腎機能を守るために、タンパク質やカリウムなどの栄養素の制限が必須な病気として有名だ。とくにカリウムは、ステージ3b以上の場合に制限すべき栄養素で、野菜や果物の摂取量や調理法などに注意が必要になってくる。それが面倒でいやになり、制限を気にせずに食べてしまったり、あるいは逆にほとんど食べなくなってしまう人も中にはいる。

そもそも野菜や果物は、摂取量が多い人のほうが少ない人よりも死亡リスクが低いことは、これまでの研究で明らかになっている。腎機能が低下し、栄養療法を行っている人でもそれが当てはまるのか。新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授らの研究グループが次のような報告をしている。

病院に通っている人で「CKDのない人」「保存期CKD(ステージ3以上で透析療法前)患者」「血液透析患者」の3グループで、野菜や果物の摂取頻度と死亡リスクとの関連が異なるのかをコホート研究(観察研究)で調べたところ、毎日食べる人に比べて、時々食べる人、ほとんど食べない人の順で死亡リスクは高くなった。それはCKDがない人、保存期CKD患者、血液透析患者のどのグループでも同様だったという。

こうした研究を始めたきっかけは、近年の欧米の研究で、保存期CKD患者や血液透析患者でも野菜や果物の摂取が少ないと死亡リスクが高いことや、食事中のカリウム摂取量と血清(血液中の)カリウム値に関連がないことが報告されていたからで、欧米と日本では食習慣が大きく異なることから日本人での検討が必要と考えたという。

具体的な研究方法は、2008年から新潟大学とJA新潟厚生連佐渡総合病院が共同で行っている「佐渡プロジェクト」参加者のうち、登録時に腎機能の情報と野菜・果物の摂取調査結果があり、腹膜透析を受けていない2006人(平均年齢69歳、男性55%)を解析。平均5.7年間の追跡調査中に、561人が死亡。毎日摂取していた人に比べて、時々食べる人は1.25倍、ほとんど食べない人は1.60倍と死亡率が増大した。

またCKDの状態別に検討を行ったところ、保存期CKDや血液透析の患者群では人数が少ないため有意差はなかったものの、死亡率は同様の関連がみられたという。また、血清カリウム値をステージ別で検討すると、野菜・果物の摂取頻度によらず、血清カリウム値は同程度だった。

CKD患者がなりやすい高カリウム血症になってしまうと、最終的には心室細動などの致死的な不整脈が起こりやすくなる。しかし野菜や果物を摂らないために増大する死亡リスクは、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素が十分に摂れないためとも推測される。そもそもカリウムを多く含む食べ物を摂取することでカリウム濃度が上がるのか、腎機能が低下してカリウムの排泄量が減ってしまうためにカリウム濃度が高くなるのか、そのどちらも影響しているのであればどの程度なのか、今後のさらなる研究を待ちたい。

現在カリウム制限を指示されているCKD患者にできることは、野菜を茹でこぼしたり水にさらしたりする、果物は缶詰を食べる、できるだけカリウムの少なめのものを選ぶ、などの方法で規定量をしっかり食べること。CKDでない人も、もちろん野菜と果物はしっかり摂取したい。

「健活手帖」 2023-03-06 公開
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。