「最近、すぐに名前が出てこない」といったことが、年を重ねるにつれ起こりやすい。肉体的にも高齢になるにつれ衰えるため、脳の機能が衰えるのは当たり前と思うのが一般的だろう。ところが、脳内科医として新たな脳画像診断法を開発し、1万人以上の治療を行う加藤プラチナクリニック(東京都港区)の加藤俊徳院長は、首を横に振る。
「脳の機能は30歳を過ぎてからどんどん成長します。成長のピークは50代ですが、脳の仕組みを知って効率よく学習すれば、いくつになっても成長できるのです。日頃から学ぶ習慣を身につけることが大切なのです」
肉体は30代を超えた頃から衰えを感じやすい。駅の階段を猛ダッシュして駆け上ることも難しくなるものの、身体を鍛えるためにジムに通うなど日々努力を重ねれば、階段を駆け上がることも可能だ。脳も同じ。脳も鍛えることで成長し続けることができる。
■丸暗記は不適応
「脳の仕組みを知ると、働き盛りの方々の脳は、学生時代よりも確実に良くなっています。脳の使い方がご自身の脳の仕組みと合っていないと、脳は上手く働くことができません。それを脳の衰えと勘違いされる方が多いのです」
子どもの頃は、「九九」など意味が理解できなくても、丸暗記できる脳の仕組みがある。一方、大人になった脳は、さまざまな情報を得ながら成熟したことで、無意味な丸暗記は苦手になっているという。脳を総合的に働かせながら記憶にとどめる仕組みに変わっている。それに気づかぬまま、丸暗記の勉強で上手くいかないと学習効率がさらに落ち、悪循環にも陥りやすいそうだ。
「脳を上手く使い続けないと加齢とともに脳は萎縮し、脳の神経細胞も死滅して、認知症のリスクが上がります。脳を効率よく使うことで、脳の成長を促進して認知症を防いでいただきたいのです」
加藤院長は、脳の正しい使い方を広めるために、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)などを上梓し、啓蒙活動に力を注いでいる。
■75歳までが脳の中年期
「身体的には30歳を超えたら中年といわれます。多くの患者さんを診た私の感覚では脳は45~65歳が中年期。この状況を変え、45~75歳を脳の中年期にすれば、認知症予防につながり、健康寿命を伸ばせると思うのです」
健康寿命を妨げる要介護の原因第1位は「認知症」。2025年には高齢者(65歳以上)の5人に1人は認知症になると予測されている(厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業報告書)。世界的にも先進国の認知症の増加は深刻で、今年1月には、エーザイのアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が、米国食品薬品局(FDA)によって迅速承認された。
「認知症予防は、大人の脳に合わせた学習習慣を持つなど、脳の生産性を高めることで可能です。脳は使い方次第で、75歳でも40代の脳を維持できるのです。ぜひ脳の中年期を75歳までにしていただきたいと思います」