大腸がんの名医~術前に放射線と化学療法の最新治療を行う大阪急性期・総合医療センター消化器外科副部長、賀川義規さん
医療ジャーナリスト 長田昭二

手術の前に化学療法と放射線療法を組み合わせることで、機能温存と術後の再発転移抑制を目指した最新治療の開発に取り組む外科医を紹介する。
大阪急性期・総合医療センター消化器外科副部長を務める賀川義規医師は、結腸・直腸がんにおけるロボット手術において、「ホワイトサージェリー(出血のない手術)」に取り組む俊英。そんな賀川医師がいま、力を入れているのが「トータル・ネオアジュバント・セラピー=TNT」という最新の治療法だ。
「従来は、まず手術をして、そのうえで再発転移の危険性があるときに化学療法や放射線治療を行うのがセオリーでした。一方、TNTは再発しやすい直腸がんに対して、術前に放射線療法と化学療法を行うことで術後の再発転移のリスクを下げ、がんが見えないぐらい縮小したケースでは直腸を温存する治療法です」
術前に短期間の放射線治療の後に2種類の抗がん剤を使った化学療法を行うことでがんの縮小を図り、手術を行うかどうかを判断する。従来なら手術で直腸を切除し、人工肛門の造設が必要だったケースでも手術を行わず直腸を温存できるケースがあることが海外の論文で報告されている。
「2018年頃から論文報告が始まり、欧米ではすでに治療ガイドラインにも収載されています。日本でも保険収載を目指して、大腸がん治療の最前線にいる仲間の先生たちと臨床試験に取り組んでいるところです」
化学療法と放射線療法を積極的に利用するこの治療を、外科医が行うことの重要性を、賀川医師はこう語る。
「治療効果に応じて手術をするか、見極めができるのは外科医です」
もはや外科医の仕事は切るだけではない。大腸がん治療の姿を大きく変える可能性を秘めたこの取り組み。賀川医師の肩にかかる期待は大きい。
賀川義規(かがわ・よしのり)
大阪急性期・総合医療センター消化器外科副部長。富山医科薬科大学(現・富山大学医学部)卒業。大阪大学大学院修了。大阪大学医学部附属病院高度救急救命センター、市立豊中病院、関西労災病院等に勤務ののち、2020年から現職。21年から阪大大学院消化器外科学招聘教員。日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化管学会、日本大腸肛門病学会、日本消化器病学会のそれぞれ指導医ほか。趣味は「手術」。