大腸がんの名医~がんを臓器横断的に診る国立がん研究センター東病院・中村能章さん
医療ジャーナリスト 長田昭二

研究と臨床の両面から大腸がんの新しい治療法の開発に尽力する腫瘍内科医を紹介する。国立がん研究センター東病院消化管内科に所属する中村能章医師だ。
「どんな病気でも治してしまうブラックジャックに憧れて医師になった」と語る中村医師は、自ら打ち立てた「がんを臓器横断的に診る」という目標に向けて、化学療法一筋に、ブレることなくキャリアを重ねてきた。研究の柱にあるのは、「なぜがんができたのか―という大もとを知り、そこにアプローチする医療を開発し、治療に役立てる」という強い思いである。
中でもいま力を入れているのが、「リキッドバイオプシー」と呼ばれる遺伝子検査法の確立だ。
従来は手術などで採取したがん組織を標本として遺伝子情報を読み取るのが主流だったが、血液から遺伝子情報を読み取ることで、簡易かつ迅速な診断につなげられることから、がん患者はもちろん、術後の再発予防やがん検診での利用にも期待される最新の検査法である。
「乳がんなどでよく見られるHER2という遺伝子が、陽性の大腸がんに効果を発揮する新薬が私の研究を元に世界で初めて日本で承認されました。これは私の研究のメインテーマでしたが、この治療にリキッドバイオプシーを関連付けて普及していきたいんです」
そのためにはクリアしなければならない障壁は少なくないが、研究と臨床の双方に理想的な配分で取り組める現状は最高の環境だという。
世界最先端の医療技術を日本の患者に役立てるため、努力を惜しまない。そんな中村医師の手腕に、世界が注目している。
中村能章(なかむら・よしあき)
国立がん研究センター東病院医薬品開発推進部国際研究推進室長、トランスレーショナルリサーチ支援室・消化管内科医員。大阪大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院修了。2014年から国立がん研究センター東病院消化管内科。その間15~16年同センター研究所エピゲノム解析分野。19年同院臨床研究支援部門トランスレーショナルリサーチ推進部トランスレーショナルリサーチ支援室兼務。22年から現職。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医。医学博士。趣味は「子どもとの石拾い(地質学の勉強)」。