追悼

目の不調から、がん転移が判明、若すぎる死~バレーボール選手・藤井直伸さん

公開日:2023-04-01
更新日:2023-04-07
目の不調から、がん転移が判明、若すぎる死~バレーボール選手・藤井直伸さん
コラム・体験記
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13年目の3・11。東日本大震災被災地復興の様子を今年もテレビで見ました。

震災当時、子供だった人が立派な若者となって、故郷の未来について語る姿がなんとも頼もしい。われわれは3・11を忘れてはならない。ずっと応援し続けなければ…と思っていた矢先に、この若者の訃報を知りました。

2023年3月10日。バレーボール東京五輪代表でセッターとして活躍、V1男子の東レアローズに所属していた藤井直伸選手が亡くなりました。享年31。昨年2月に、自身のSNSで胃がんのステージ4と公表し、闘病中でした。同じバレーボール選手の佐藤美弥さんと結婚したのは2021年秋。なぜ神様はこんな試練を与えるのか。

 

■目の不調から、がん転移が判明


40歳以下で罹患(りかん)した場合、若年性胃がんと呼ばれます。中高年よりも進行が早く、また、無症状で進行し、検査でも見つかりにくい「スキルス胃がん」が、若年性では多いことがわかっています。藤井選手は2021年末より目の不調を感じたことから検査に行き、がんが転移していることが判明したようです。

「簡単に克服できる病気ではありませんが、僕には共に戦ってくれるかげがえのない仲間、温かく心強い家族、たくさんの応援してくださるみなさんがいます!!みんなの莫大(ばくだい)なエネルギーを力に変えて、必ず元気になります!!」(本人のインスタグラムより)

藤井選手は、宮城県石巻市の出身。順天堂大学1年のときに東日本大震災が起き、ご実家が津波で流されました。

漁業関係の父親が職を失ったこともあり、家族思いの彼は自分だけが好きなことを続けていいのかと、一度はバレーを諦めようとしました。しかし大学が救済措置を取ってくれ、周囲が手を差し伸べてくれたおかげで続けられたといいます。2021年、震災11年目。東京五輪の延期が決まったときのことについて、インタビューではこんなふうに語っていました。

 

■永遠に消えぬ「利他のこころ」


「世の中が大変な時期で、人の命以上に大切なものはない。どんな状況であろうとこれからも自分がバレーボールを続け、バレーボール選手であり続ける限り、宮城を背負って、宮城、東北の代表として頑張らないといけない、という気持ちは、以前よりずっと強くなりました」

強い気持ちで病とも向き合っていたはずです。

「自分が頑張ることが、誰かの力になっているかもしれない、と思えば、またもっと頑張れる」

東北のために、バレーボールのために。藤井選手の「利他のこころ」は永遠に消えません。

「健活手帖」 2023-03-20 公開
解説・執筆者
長尾クリニック院長
長尾 和宏
医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。健活手帖の連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。