関節痛 深刻な手指の痛みと対策

スマホが押せない!深刻な手指の痛みと対策④~「手のしびれ」は重病でなくても「手根管症候群」かも

スマホが押せない!深刻な手指の痛みと対策④~「手のしびれ」は重病でなくても「手根管症候群」かも
病気・治療
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ある日突然、手の痛みに加えてしびれが生じると、「脳の病気かもしれない」と心配になるだろう。脳梗塞で脳への血流が止まり、神経細胞が死滅すると手のしびれなどの症状につながる。脳腫瘍などでも起こり得るので注意が必要だ。しかし、脳神経内科を受診してMRI(核磁気共鳴画像法)などの検査を受けた結果、「異常ありません」といわれ、ホッとしつつも、手のしびれや痛みは残ったままということがある。このような症状を引き起こす代表的な病気が、「手根管症候群」(しゅこんかんしょうこうぐん)だ。

「手のしびれの中でも、手根管症候群の患者さんは多いと感じます。指の感覚をつかさどる正中神経(せいちゅうしんけい)が、手首の手根管(しゅこんかん)で圧迫されることで、指のしびれを引き起こすのです」

こう説明するのは、NTT東日本関東病院整形外科の高本康史医長。手根管症候群など手の病気の診断・治療を数多く行っている。「手根管とは手首の手のひら側にあるトンネルで、手根骨という骨と靱帯(横手根靱帯)で囲まれています。内部には正中神経以外に、指を動かす腱(けん)が通っています。加齢などによって靱帯が厚くなって正中神経を圧迫することで、しびれなどの症状につながります」

手根管症候群では、手の神経が障害された結果、親指・人さし指・中指・薬指の親指側の半分がしびれる。小指がしびれないのが特徴だ。進行すると親指のつけ根の母指球がやせてきて、親指を開いたり・つまんだりなど日常生活動作ができなくなることもあるそうだ。

「ステロイド注射がよく効くのですが、数カ月すると再燃する方も多いです。また、ステロイド注射を何回も繰り返すと、腱が切れるなど合併症を起こすことがあります。ステロイド注射が効かなくなってきた場合は手術が選択肢です。筋力が低下している場合は、最初から手術が適用になる場合もあります」

手根管症候群の手術は、正中神経を圧迫している靱帯を切って開く。20分程度の小さいキズの日帰り手術だ。予防は難しい。高本医長によれば、手根管症候群の要因は更年期障害や糖尿病などいろいろある(別項参照)。男性より女性の方が発症しやすい。

「手に異変を感じたときに見逃さないことが大切です。手に詳しい手外科専門医のいる整形外科や形成外科を早めに受診してください」

手のしびれは、首の骨(頚椎)の変形や頚髄の神経への圧迫でも生じ得る。どう見分ければよいのか。

「頚椎症は、首から肩や腕にかけてのしびれや痛みなど、手のしびれ以外の症状を伴うのが一般的です。手根管症候群は親指から薬指の手のひら側、肘部管症候群は小指と薬指と、手首から先にだけに症状が出ることが多いです。ただし、頚椎と手の疾患が両方重なる場合もあり得ます」

早めに整形外科を受診して原因を突き止めよう。

手根管症候群の要因

□仕事などで手や手首を繰り返し使うことが多い
□手首の骨折(橈骨遠位端骨折など)をしたことがある
□更年期以降の女性
□妊娠中の女性
□糖尿病や甲状腺機能低下症などの持病がある
□人工透析を受けている

「健活手帖」 2023-03-31 公開
解説
整形外科医師
高本 康史
NTT東日本関東病院整形外科医長。2004年、順天堂大学医学部卒。初期研修後、2006年、東京大学整形外科医局入局、2016年、米クライナートハンドセンター臨床留学を経て、2019年からNTT東日本関東病院勤務、2022年から現職。専門は手肘の変性疾患や外傷・整形外科。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。