朝起きたときに指が曲がった状態で伸びない。伸ばそうとすると引っかかる。痛みに耐えつつ伸ばそうとすると、指がカクンと跳ねて伸びる。触ると指全体が腫れている。消炎鎮痛剤を塗ってしばらくすると痛みは和らぐが、翌朝も同じ状態に見舞われる。――このような症状を引き起こすのが「ばね指」だ。
「ばね指は、指のつけ根の腱鞘炎(けんしょうえん)です。指の使い過ぎで、どの指にも生じます。加齢や女性ホルモンにも関係しているため、更年期の女性や妊娠出産期の女性も発症します」
こう話すのは、NTT東日本関東病院整形外科の高本康史医長。日本手外科学会認定専門医で、数多くのばね指などの患者の診断・治療を行っている。
腱鞘炎の腱鞘とは、腱(けん=骨と筋肉をつなぐ組織)の周りをトンネルのように取り囲み、腱に沿っていくつも連なっている。指を曲げたときに腱を骨に固定して、さらに腱の動きをスムーズにしているのが、腱鞘の役割りだ。
「ばね指では、腱鞘が炎症を起こすことで厚くなり、腱の動きが悪くなります。夜間は手を動かさないので指がむくむため、朝起きたときには症状が強く出ます。動かそうとした指がばねのように跳ねることがあるので、ばね指と呼ばれています」
一般的に朝起きたときの指のこわばりは、「関節リウマチ」で起こることが知られている。関節リウマチは、自身の免疫が関節を包む滑膜を敵と認識し、攻撃することで関節が破壊されていく。ばね指の腱鞘炎とは全く違う病気なのだが、「朝の手のこわばり」「指が腫れる」といった症状が似ているため、「ばね指なのに関節リウマチと勘違いされた」といったことも生じる。
「関節リウマチは臨床症状と血液検査である程度診断できます。ばね指は血液検査とは関係ありません。治療法も全く異なります。手の異常に悩まれたときには、日本手外科学会の『手外科専門医名簿』(「日本手外科学会」で検索)をチェックし、ご自宅近くの専門医に相談しましょう」
ばね指の腱鞘炎は、安静にして様子を見ることで自然に治ることもある。ひどい場合は、腱鞘に局所麻酔入りのステロイド注射の治療を行うと、症状が治まるケースが多いという。
「ステロイド注射はばね指によく効くのですが、数カ月すると再発する方も多いです。また、ステロイド注射を何回も繰り返すと、腱が切れるなど合併症を起こすことがあります。そのため、注射を繰り返しても功を奏さないときには手術が選択肢になります」
ばね指の手術は、指のつけ根を小さく切開し、厚くなった腱鞘を切って開いて腱への引っかかりを取り除く。
「ばね指を引き起こす腱鞘は1つ切除しても指を曲げるときに支障はありません。局所麻酔により15分程度で済むため、手術を希望される方は少なくないです」
治療法は確立されているが、ばね指にならないことに越したことはない。予防のストレッチ法(別項)を参考にされたい。
高本医長が伝授!「ばね指」予防のストレッチ
①右手を開き、右手の人さし指から小指を左手で持ち、手の甲の方へできるだけ反らし、10秒キープ
②②と同様に親指も反らして10秒キープ
③①のように左手で右手の指を持ちながら、右手の指全体と手首を一緒に反らして10秒キープ
④左手を開き、右手で左手の指を持ち、1~3を繰り返す
※①~④を朝晩20回ずつ行うようにする