年を重ねるにつれ手は痛みやすい。指の痛みで夜も眠れず、うまく物をつかむことが難しくなることがある。パソコンが叩けなかったり、スマートフォンが押せなかったりすることも。手外科専門医で数多くの患者を救うNTT東日本関東病院整形外科の高本康史医長に対策を聞いた。
朝起きてスマホを見ようとして、指が触れた瞬間痛みが走ったことはないだろうか。
手を見ると、利き手の人さし指の第一関節が赤く腫れぼったい。ぶつけた記憶もないのに、このような症状を引き起こすのが「へバーデン結節」。患者数が多い手の病気のひとつだ。
「へバーデン結節は、指先のDIP関節(第1関節)が変形する病気です。一般的に、膝が変形する変形性膝関節症をご存じの方はいるでしょう。へバーデン結節は、変形性膝関節症のように、指のDIP関節が変形するのが特徴です」と、高本康史医長は説明する。
指の先には末節骨(まっせつこつ)、次に中節骨(ちゅうせつこつ)がある。その間のDIP関節によって指の先端は曲がる仕組みになっている。関節には、骨と骨の間のクッションの役割を果たす軟骨や、軟骨の滑りをよくする関節液(かんせつえき)、関節を安定させる靱帯など、複雑な構造で成り立つ。高本医長が説明を続ける。
「へバーデン結節では、軟骨がすり減り靱帯が緩み、骨同士がぶつかるようになって痛みを引き起こします。人さし指に限らず、どの指にも生じます。骨が徐々に変形すると、見た目にも指の変形がわかるようになります」
骨が変形すると、痛みに加えて可動域が狭くなり、手を握ることが難しくなる。物を持ったり、料理をしたり、パソコンやスマホの操作をすれば激痛に見舞われる。
「閉経後の女性に発症しやすいので、女性ホルモンとの関係が指摘されていますが、はっきりとした原因はわかっていません。ピアニストやマッサージ師の方など、長年、手をよく使う仕事をしている人にも多いです」
一方、第2関節(PIP関節)が変形する「ブシャール結節」という病気もある。へバーデン結節と同様だが、第2関節に痛みや腫れ、変形を引き起こす。
いずれにしても治療では、関節の負荷を軽減するためのテーピングや消炎鎮痛薬による痛みの軽減が行われる。関節の変形がひどい人には手術も実施される。
「手術には、関節を固定し、骨同士がぶつからないようにする関節固定術と、人工的な関節に置き換える人工関節置換術(別項)があります。治療法は病態に合わせて選択します。また、別の病気が潜んでいることもあるので、手指に異変を感じたら早めに受診しましょう」
へバーデン結節やブシャール結節以外にも、手の痛みを引き起こす病気はある。医師の診断が不可欠だ。
人工関節置換術とは
変形した骨を関節で切除して、シリコンや金属などでできた人工関節に置き換える手術。特に第2関節が変形する「ブシャール結節」では、人工関節置換術が多く行われている。