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「かかりつけ医」が見つけた“重大な異変”④~90代男性に大動脈弁狭窄症

公開日:2023-03-31
更新日:2023-04-04
「かかりつけ医」が見つけた“重大な異変”④~90代男性に大動脈弁狭窄症
病気・治療
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診察や検査で、別の思わぬ病気が見つかることがある。その変化に気づきやすいのは長年、同じ患者を診続けている「かかりつけ医」だ。がんや心臓病のような大きな病気を早期発見できて命が助かった人、反対に発見が遅れて後悔している人…。明暗を分けた実例を紹介する。

東京都に住む90代半ばの高橋宗一郎さんの異変も、地元のかかりつけ医によって見つけられた。その後、どのような経緯をたどったかは、50代、60代の読者の方には自分の両親らの介護等に役立つ例かもしれない。

高橋さんの持病は高血圧症で、数年前、狭心症のカテーテル治療を受けて一息ついていたが、「息苦しい」などとの体調悪化を訴えた。かかりつけ医は、小野内科診療所(東京都江東区)の小野卓哉院長だ。いくつかの検査を行い、その見立ては「大動脈弁狭窄症」だった。

「加齢、高血圧、高コレステロールといった要素が背景にあり、高齢になるとだれにも起こり得る病気なんです」(小野医師)

心臓の出口にある大動脈弁が上記のような要因により、うまく開かなくなる病気で、進行すると息切れや失神などを引き起こし、死亡するリスクが高まる病気だ。

大動脈弁狭窄症は従来なら、開胸手術で弁を治療する方法があるが、近年では足の付け根などからカテーテルを挿入して人工弁に置き換える低侵襲の大動脈弁置換術(TAVI)も可能になっている。

高橋さんは数年前までスポーツジムに通うなど体力的に元気で、認知症もなかった。小野医師がTAVIによる治療を提案すると、高橋さんも乗り気になり、都内の大学病院に紹介した。

ところが、大学病院の循環器チームでは、「TAVIをしなくていい」との判断だった。その理由は「症状の程度が乏しい上に患者さんが高齢のため、リスクが治療によって得られるベネフィット(医学的恩恵)を上回る」というものだった。

この病気を治してもっと長生きしたいと前向きだった高橋さんは、治療を見送るという病院の判断に落胆した。

ただ、小野医師は高橋さんの生きる意欲を尊重してその数カ月後、別の総合病院に紹介状を書いた。同病院で検査をしたところ、大動脈弁に血栓ができていたことが判明した。「脳梗塞を合併するリスクがあるため、TAVIはできない」と言われた。

この診断結果に高橋さんはすっかり元気がなくなった。家にこもりがちとなり、歩けなくなりかけた。小野医師のもとに戻ると、今度は「胸が痛い」と訴え始め、狭心症の症状が出始めた。

循環器病を専門とする小野医師は「治療せず、このまま放置することはできない」と判断。同時に、高橋さんの家族が親のつらそうな様子を見て必死に病院を探した。そうした中、3つ目の病院が見つかり、治療に前向きな言質が得られたため、紹介状を書いた。他の2つの病院では断られたカテーテルによるTAVIが実施され、無事成功した。高橋さんは元気を取り戻し、現在リハビリに取り組んでいるという。

病院に行き、そこで治療を断られると、患者や家族がインターネットなどで病院を検索して、あちこちの病院を回るが、適切な治療を受けられないケースもある。今回は、患者を身近に診ている小野医師が仲介役となり、家族の協力もあり、最終的に治療をしてくれる病院にたどり着いた。

「患者さんが90代半ばになっても、生きる意欲が旺盛なら、かかりつけ医として最善の治療方法を見つけてその手助けをしたい。高齢だからとか、合併症のリスクがあるとかの理由だけで、治療をあきらめなくてよかった例です」

小野医師はこのように話している。

 

【上写真】
人工弁(右)を折りたたんでカテーテルで運び、狭窄した大動脈弁の内側で広げて留置するTAVI(エドワーズライフサイエンスの資料を基に作成)

小野卓哉(おの・たくや)

1992年、日本医科大学医学部卒。同大学大学院医学科修了、東京医科歯科大学大学院MMA医療管理学コース修了。日本医科大学付属病院循環器内科を経て2006年に小野内科診療所に勤務、16年に院長に就任。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医など。医学博士。
 

「健活手帖」 2023-02-10 公開
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。