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「血栓」最新事情⑤~抗血栓療法中の人の脳出血リスク分かれ目は「上の血圧130」「下の血圧81」

公開日:2023-03-31
更新日:2023-04-07
「血栓」最新事情⑤~抗血栓療法中の人の脳出血リスク分かれ目は「上の血圧130」「下の血圧81」
病気・治療
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抗血栓薬を服用していると、重篤な副作用として脳や消化管などに出血が起こることがあり、服用している薬に対応した中和剤で治療する必要があることを説明した。そのため抗血栓薬を服用している人は、出血性合併症を起こしたときのために自分の飲んでいる「血液をサラサラにする薬」の名前を伝えられるようにしておく必要がある。できるだけ家族にも知らせておいてほしい。

出血性合併症が起きて救急外来に運ばれたとき、医師や病院から本人や家族に薬の問い合わせがあり、すぐに答えられるかどうかで予後が変わってくるからだ。

「あるデータによると、救急外来受診後に入院した患者さんが実際に飲んでいる薬がわかる時期は、当日にわかるのは18%程度で、51%は次の日になってから、2日後では18%、3日後で13%もいます。しかし、中和療法は救急外来受診後すぐに行わなければいけません。何の抗血栓薬を飲んでいるのかがわからなければ、中和剤を投与することができないのです」

こう語るのは国際医療福祉大学医学部脳神経外科学教授の末廣栄一医師=写真右。そして、おくすり手帳や服用カードを普段からしっかり携帯してほしいと話す。

自分の服用している薬を知らせる最も簡単な方法は、お薬手帳を常に携帯することだ。しかしそれなりの大きさなので、近所にでかける程度では持ち歩かないことも多く、電子おくすり手帳にしている場合は医療機関ではすぐに情報が読み取れないことも。そこで、病院や薬局などで配布している「抗血栓薬服用カード」を財布に入れておくのがおすすめだ。

先述したようにできれば家族にも自分の飲んでいる抗血栓薬の名前を知っておいてもらうか、すぐに調べられるようにわかりやすいところにメモをしておきたい。

抗血栓薬療法に伴い出血しやすくなっていると、ちょっと転んだだけでも脳出血を起こすことがある。「高齢者、とくに抗血栓薬を内服している高齢者の頭部外傷は、多くは自宅で転倒して頭を打つ程度ですので軽症です。しかしこれを放っておくと、だんだんと血腫(排出されない血液)が大きくなって、重症化し脳ヘルニアになってしまうことがあります。脳ヘルニアになると元に戻すことはできません」

抗血栓薬を飲んでいる本人や家族ができる転倒対策は2つ。まず、ゴツンと音がするほどの転倒をした場合は念のために病院に行き、抗血栓薬を飲んでいることと合わせて受診時に伝えること。

もう1つは、自宅で転倒することが多いので、次のような対策を講じておきたい。階段に手すりやフットライトをつけたり、カーペットや畳のヘリをテープなどで固定したり、テーブルなどの家具のとがった箇所にカバーを付けるなどの対策でもだいぶ違うそうだ。

九州医療センター脳血管・神経内科、臨床研究センター・臨床研究推進部長の矢坂正弘医師=写真左=は、脳出血のリスクとして、抗血栓薬のほかに、血圧、血糖、飲酒、喫煙に注意してほしいと話す。とくに血圧は研究により、高くなると頭蓋内出血が増え、逆に下がると減らすことができるという。

「その分かれ目は、上の血圧が130mmHg、下の血圧が81mmHgです。このような研究も参考にして、高血圧治療ガイドラインや脳卒中治療ガイドラインでは、抗血栓療法中の人の病院で測る血圧は、上の血圧は130未満、下の血圧は80未満にすることが提唱されています」

これらのことを知っておくだけでも、抗血栓薬を服用している人の助けになるはずだ。

「健活手帖」 2023-02-26 公開
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。