血液サラサラの薬、抗血栓薬の副作用は脳内の出血だけにとどまらない。消化管の出血も多いと九州医療センター脳血管・神経内科、臨床研究センター・臨床研究推進部長の矢坂正弘医師=写真右=は話す。
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「急性脳梗塞後の、消化管出血の有無別の生存率を示す海外のデータによりますと、消化管出血のない人に比べて出血のある人は、発症日から半年にかけて生存率が下がります」
脳出血であれば、出血により脳圧が高くなり、脳の中にある境界や隙間から脳組織の一部がはみ出す脳ヘルニアという状態になることが多く、出血が多ければ助からないことが多い。対して、胃や腸など消化管からの出血は、どのような理由で生存率が下がるのか。
「消化管からの出血中は、そのまま続けて血液サラサラの薬を飲むことができません。出血を助長するからですが、そのため抗血栓薬をやめると、今度はまた脳梗塞を起こし始めてしまいます。このような悪循環が起こることによって、生存率がぐっと下がっていくのです」
消化管出血は、以前に消化性潰瘍を起こした人やステロイド薬を服用している人に多く見られ、脳卒中そのものが重症になると、それがストレスでストレス性潰瘍を起こして出血する人も多いそうだ。
「消化管出血は急性期に起こりやすいので、脳卒中を起こして病院に搬入されたときに、消化管出血をいかに回避するかがとても大切です」
脳卒中を起こしたことのある人で、消化管出血のリスクのある人は、上部消化管の出血を回避するために胃酸分泌抑制剤(プロトポンプ阻害薬など)を服用する。大腸(ポリープや憩室などの病変)からの出血を抑制するためには、定期検診を受けて予防することが大切である。そして近年では、抗血栓薬療法中に脳出血、消化管出血などの出血性合併症が起きたときに中和療法を考慮する。
抗血栓薬の内服薬には「抗血小板薬」と「抗凝固薬」があるが、後者に近年中和剤が開発されている。抗凝固薬は、阻害する血液凝固因子の違いによって3種類に分けられるが、そのターゲット因子の阻害をやめさせるのが中和剤の役割だ。
血栓と止血のしくみを基に説明しよう。体のどこかで出血すると、まずはそこに血小板が集まって血栓(一次血栓)を作る。しかしそれだけではすぐに剥がれてしまうため、より血栓を強固にするために、一次血栓にフィブリンという糊状のタンパク質をからませて補強する(二次血栓)。フィブリンは、12種類の凝固因子が活性化し反応を引き起すことで生成される。抗凝固薬は、その因子のうちのどれかをターゲットとして凝固因子の活性化を阻害することで、血栓ができるのを防ぐのだ。
3種類の抗凝固薬のうちの2種類は、トロンビンという凝固因子を阻害するタビガドラン(商品名プラザキサ)と、Xa因子を阻害するリバーロキサバン(イグザレルト)▽アピキサバン(エリキュース)▽エドキサバン(リクシアナ)、あとの1種類はワルファリン(ワーファリン)で、ビタミンKを阻害することで間接的に4つの凝固因子の産生を抑制する。
中和剤はこの3種類のメカニズムに合わせて作られている。抗血栓薬を服用している人は、出血性合併症が起こったときのために、自分の飲んでいる薬の名前がすぐにわかるようにしておくことが大切だ。