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「血栓」最新事情③~「血液をサラサラにする薬」の種類と注意点、種類が増えれば脳出血のリスクも

公開日:2023-03-31
更新日:2023-04-05
「血栓」最新事情③~「血液をサラサラにする薬」の種類と注意点、種類が増えれば脳出血のリスクも
病気・治療
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動脈硬化によって、動脈にできる血栓は脳梗塞や心筋梗塞などの原因に、同じ姿勢を長時間続けるなどして血流がよどむことで静脈にできる血栓は、肺血栓塞栓症などの原因になる。心臓にも心房細動などの不整脈によって血流がよどんで血栓ができ、心原性脳塞栓症が起こるリスクが高い。

それらの血栓の病気が疑われる人の発症や、すでに発症した人の再発を予防するための「抗血栓療法」について国際医療福祉大学医学部脳神経外科学教授の末廣栄一医師=写真右=に聞いた。

抗血栓療法は大きく分けて次の3種類がある。

①抗血小板療法
②抗凝固療法
③血栓溶解療法(t―PA療法)

①は脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈血栓症を発症した人など、おもに動脈の血栓予防に行われる。動脈硬化によって血管の内膜が破れると、まず血小板が集まって塊を作り傷を塞いで止血するが、その塊が作られるのを抑制するために抗血栓薬を服用する。

薬剤は、アスピリン(商品名・バイアスピリン、バファリン81mg)▽チクロピジン(パナルジン)▽クロピドグレル(プラビックス)▽シロスタゾール(プレタール)▽プラスグレル(エフィエント)▽サルポグレラート(アンプラーグ)など。

②は動脈より血流の遅い静脈や、心房細動などの不整脈で心臓内の血流が滞留しやすい場合に行われる。血管の内膜が破れて出血すると、止血の第一段階として血小板が塊をつくり、第二段階としてフィブリンという糊のようなもので血小板の塊を補強する。抗凝固薬はこのフィブリンが作られるのを促す血液凝固因子の働きを抑えることで、塊が大きく強固になるのを防ぐ。血液凝固因子は血流の流れが遅いところで働きやすいため、血流が滞留する心房細動の患者にも処方される。

薬剤は、ワルファリン(ワーファリン)▽タビガドラン(プラザキサ)▽リバーロキサバン(イグザレルト)▽アピキサバン(エリキュース)▽エドキサバン(リクシアナ)▽ヘパリンなど。

③は脳梗塞発症後、4時間半以内に投与する。

「抗血栓薬にはこのようにいろいろな種類があり、使用目的が異なりますが、脳卒中や虚血性心疾患の予防という大きなメリットのある薬です。同時に、出血性合併症をメインとしたさまざまな副作用があります。とくに出血性合併症は一定の確率で起こるため、少しでも後遺症を残さないために適切に対応をしなければなりません」

たとえば抗血栓療法中の頭蓋内出血の発症率は、抗血小板薬で1年に0.2~0.3%、抗凝固薬で0.3~1.2%。抗凝固療法中に脳出血を合併した場合の急性期死亡率は43~54%(2020年11月発行の『脳神経外科』より)と、注意が必要な処方だ。

「また、服用する抗血栓薬の種類が増えるほど、脳出血のリスクが増えてきます。とくに心血管疾患を有する患者さんや、もともと脳血管に何らかの問題があって抗血栓薬を飲んでいる患者さんは、血腫(出血した血液が体内に溜まる)拡大リスクは高くなります」

脳出血後に頭部CT検査で血腫の拡大を認める割合は、抗血栓薬を服用していない人で18%なのに対し、抗血小板薬単剤では27%、ワルファリン単独では37%、ワルファリンと抗血小板薬を併用すると45%が血腫拡大を認めたという(BAT研究)。「抗血栓薬が2剤、3剤になると、その割合はどんどん大きくなっていってしまいます」

「健活手帖」 2023-02-24 公開
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。