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「血栓」最新事情②~長時間同じ姿勢をとること以外でも起こる血流のよどみ「心房細動」

公開日:2023-03-31
更新日:2023-04-04
「血栓」最新事情②~長時間同じ姿勢をとること以外でも起こる血流のよどみ「心房細動」
病気・治療
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血栓ができた場所で血流が遮られて症状を起こす場合を「血栓症」、血流に乗って末梢側で血管をふさぐ場合を「塞栓症」という。血栓は動脈、静脈のどちらにもできる。

動脈硬化によって血栓ができて起こる病気には、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈血栓症などがある。脳梗塞は前回説明したように、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症がおもなタイプだ。

心筋梗塞は、心臓の最も太い血管である冠動脈が詰まって、その先の心臓を動かす心筋に酸素と栄養が届かなくなり一部が壊死し、心臓の動きが悪くなる病気。心筋梗塞と狭心症は虚血性心疾患と呼ばれるが、狭心症は運動など心臓の負荷が急に増したときや、動脈硬化や冠動脈攣縮(れんしゅく)で血流供給が急に減少したときに胸痛などの虚血発作が一時的に発現する状態である。

末梢動脈血栓症は、腹部大動脈から下肢動脈が詰まって、歩くとお尻や太もも、ふくらはぎなどが痛くなったりする。放置すると歩行困難や、足の指の傷が治りにくくなり壊死したりすることも。動脈硬化という共通項があるこれらの病気は合併することも多い。

静脈に血栓ができて起こる病気には、深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症などがある。深部静脈血栓症は俗にエコノミークラス症候群と言われ、長時間同じ姿勢を取ることで血流がよどみ血栓ができる。多くはふくらはぎや太ももなどの下肢深部の静脈に血栓ができ、初期症状は腫れや痛みだ。

また、深部静脈でできた血栓が肺に飛ぶことで「肺血栓塞栓症」が起こることがある。突然呼吸困難になったり胸痛を起こしたり、重症だと失神、心肺停止を起こすことも。誘因は、飛行機に長時間乗ることだけではなく、長期入院や手術後なども起こる。手術前に弾性ストッキングを履くのは、この肺血栓塞栓症を予防するためだ。

血流のよどみは、長時間同じ姿勢をとること以外でも起こる。それが、心原性脳塞栓症のおもな原因となる「心房細動」だ。そのメカニズムを九州医療センター脳血管・神経内科、臨床研究センター・臨床研究推進部長の矢坂正弘医師=写真右=がこう説明する。

「私たちの心臓は、たとえば心臓が平均値である60~70回の脈を打つときに、4つある心臓の部屋の上部、右心房の洞結節というところから1分間に60~70回、電気信号を発しています。それを受け心臓はうまい具合に心房と心室が協調し収縮拡張を繰り返しますが、何らかの原因で電気的信号が急に肺静脈や左右心房のあちこちで、1分間に200~300回と起こるようになります」

「そうなると心房は震えるような状態になり、十分に収縮することができなくなります。信号は一部が心室に伝わるため、心室まで震えるということはないのですが、全く不規則に心室に電気信号が伝わりますので、脈も不規則になります」

心房細動が起こると心臓の上半分の動きが非常に悪くなるため、心臓全体の働きが悪くなり、心不全の原因になる。心臓は、異常を抱えて無理に働き続けると疲弊する。心不全とは、血液を全身に送り出すポンプ機能が低下した状態のことだ。

「心臓が十分に収縮できなくなると、血液がよどんで、左心房の左心耳に血栓ができやすくなります。頭にその血栓が飛べば脳梗塞が起きます」

このように、動脈では動脈硬化、静脈や心臓の心室では血流のよどみといったように、血栓ができるメカニズムには違いがある。一度これらの血栓性の疾患にかかった人に対する予防的治療には、抗血栓療法という薬物療法がある。

「健活手帖」 2023-02-22 公開
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。