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「血栓」最新事情①~「血栓が原因の病気」はがんに次いで死因第2位、患者は150万人以上

公開日:2023-03-31
更新日:2023-04-03
「血栓」最新事情①~「血栓が原因の病気」はがんに次いで死因第2位、患者は150万人以上
病気・治療
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新型コロナウイルス感染症で話題になった「血栓」。コロナでできるメカニズムはまだ解明されていないが、心疾患や脳血管疾患など重篤な病気を引き起こすことは有名だ。寒い時期に増えるこれらの病気と「血液をサラサラにする薬」の注意点など「専門医に聞く 血栓最新事情」を解説する。

日本人の死因トップは悪性新生物(がん)で、26.5%。2位は心疾患(14.9%)、3位が老衰(10.6%)で4位が脳血管疾患(7.3%)である(令和3年『厚生労働省人口動態統計』)。2位と4位を血管の病気として合算すると、死因の第2位になる(22.2%)。これらの血管の病気の多くは「血栓」が原因となっている。

「少し古いのですが、2015年の厚生労働省の患者調査によると、脳梗塞の患者さんは78万6000人、虚血性心疾患の患者さんは72万人、計150万6000人。この人たちの多くは再発予防に抗血栓薬を飲んでいると推察されます。ちなみにがん患者は178万2000人です」

こう話すのは、高齢者の転倒・転落による頭部外傷についての啓発活動に力を入れている国際医療福祉大学医学部脳神経外科学教授の末廣栄一医師=写真右=だ。

脳血管疾患(脳卒中)は、大きく分けて「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3種類。うち約75%を占める脳梗塞が、血栓によって血管を塞がれることで起こる。また心疾患のうち、虚血性心疾患は30%以上を占める。その合計が150万人以上に上るのだ。

血管の病気といえば、動脈硬化がよく原因として挙げられるが、血栓ができる体内環境はそれだけではない。血栓ができる要因はおもに3つ。(1)動脈硬化などによって引き起こされる「血管」の壁の異常、(2)脂質異常症や糖尿病、がん、経口避妊薬やホルモン剤などによる「血液」の固まりやすさ、(3)そして心房細動などの心機能の低下で引き起こされる「血流」のよどみだ。これらの要因が重なればさらに血栓ができやすく、重篤な病気になるリスクは上がる。

このうちよく知られているのが、「血管」の異常である動脈硬化で血栓ができるメカニズムだろう。血管の内側にプラークが形成され、大きくなると破裂し、血液が固まる反応が起きてそこに血栓ができる。皮膚の上にできるかさぶたが血管内にできるようなものだが、それが血管内を塞いでその先に血液がいかなくなったり、血栓が血流に乗って、別のところで血管を塞いだりすることで、その先の細胞組織に血液が行かずに脳や心筋が部分的に壊死する。

それぞれが脳梗塞や心筋梗塞と呼ばれ、死に直結することもある。

血栓ができた場所で血流が遮られて症状を起こす場合を「血栓症」、血流に乗って末梢側で血管をふさぐ場合を「塞栓症」という。脳梗塞にはどちらのタイプもある。

抗血栓薬や中和薬に詳しい、九州医療センター脳血管・神経内科、臨床研究センター・臨床研究推進部長の矢坂正弘医師=写真左=に詳しく聞いた。

「脳梗塞にはたくさんのタイプが知られていますが、代表はラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、そして心原性脳塞栓症の3つです。ラクナ梗塞は髪の毛くらいの細い脳の動脈が動脈硬化によって詰まって起こります。アテローム血栓性脳梗塞は、頭や首の比較的太い動脈に動脈硬化が起こって詰まる病気です」

心原性脳塞栓症は、心疾患にともない心機能が低下し、心臓内に血栓が形成され、それが血流に乗って頭の血管を詰めて脳梗塞を起こす病気だ。

「高齢者に多い、心房細動という不整脈が心原性脳塞栓症の原因として、今最も注目されています」(矢坂医師)

「健活手帖」 2023-02-21 公開
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。