心臓・心疾患 高血圧 冬の高血圧対策

冬の高血圧対策(3)~減量目標は「ちょい太め」に設定、痩せている高齢者の方が死亡リスクが高い

冬の高血圧対策(3)~減量目標は「ちょい太め」に設定、痩せている高齢者の方が死亡リスクが高い
病気・治療
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年始から過食気味で、体重が3~4kgも増えたなどという人もいるだろう。それが高血圧に拍車をかける。

「肥満と高血圧の関係は深いのです。もともと高血圧の人が体重を増やすと、さらに高血圧を悪化させます」と、東京都健康長寿医療センターの原田和昌副院長は警鐘を鳴らす。

太ると血圧が上がりやすいのは、内臓脂肪に関係する。血圧を上昇させる物質(アンジオシノーゲン)が、内臓脂肪が増えることに連動し増加するからだ。肥満の人が体重を10キロ落とすと、上の血圧(収縮期血圧)が15mmHg程度下がるといわれている。90キロの人が80キロにすると、仮に上の血圧が150mmHgだった場合、135mmHgの家庭血圧測定での正常域に到達することが可能といえる。

「年をとると腎機能の低下で塩分排せつ能力が落ち、塩分が体内にたまりやすくなります。肥満した状態で老いると、塩分もたまりやすく、血圧を上昇させる物質の影響も受け、ダブルでよくないのです」

やはり、正月太りは解消するに越したことはない。とにかくやせることがなにより…といいたいが、実は痩せすぎるのもよくない。痩せすぎの人は太っている人よりも、死亡リスクが高くなるという疫学調査報告があるからだ=別項参照。

「肥満は健康害といわれながら、高齢者は少し太っていた方が死亡リスクが低いという『オベシティ・パラドックス(肥満の矛盾)』は、国内外で確認されています。逆に、高齢者は病気で痩せた場合も、ダイエットで痩せた場合も、死亡リスクが同様に上がるのです」

メタボ健診と呼ばれる『特定健康診査・特定保健指導』が2008年に始まり、内臓脂肪は目の敵にされ、痩せることが美徳のように考えられてきた。が、死亡リスクという観点では、やせ過ぎはよくないのだ。

「ちょっと太めを目指しましょう。身長(cm)から100を引いた数値が体重(kg)の理想です。ちょっと太めの状態を維持し、血圧も正常で生活習慣病がなければ、当然のことながら健康長寿につながります」

「ちょっと太め」は、身長170センチの場合、170―(マイナス)100=体重70キロ。ただし、これまで65キロだった人が、正月太りで70キロに体重が増えた場合は、高血圧や高血糖の引き金になりかねないので注意が必要だ。

「ちょっと太めがいいといっても、無理に太る必要はありません。肥満は血圧上昇、動脈硬化の促進、さらには心臓に悪影響を及ぼします。すでに肥満の人は徐々に解消し、ちょっと太めを目指していただきたいと思います」と原田副院長は語る。

日本人のBMIと死亡リスク

BMI(体格指数=体重kg÷身長m2乗)で「25」以上は肥満とされる。だが、男性16万人(1999年追跡)では、死亡リスクが「25~27未満」で最低だった。つまり、肥満領域の「ちょっと太め」で、死亡リスクが最も低かったのだ。「21」未満の痩せている方が、死亡リスクが高かった。女性の場合は、「23~25未満」が死亡リスクが最も低く、男性と同様に、痩せている人は死亡リスクが上がっていた。
※「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防提言に関する研究」より

「健活手帖」 2023-01-13 公開
解説
医師、医学博士
原田 和昌
東京都健康長寿医療センター副院長。医学博士。東京大学医学部卒。ハーバード大学、東京大学医学部循環器内科などを経て2012年から現職。専門は心不全、冠動脈疾患、高血圧。高齢者の心臓病や高血圧の診療・研究を数多く行っている。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。