冬場の気温と室内暖房の寒暖差があると、血圧変動を起こしやすい。血圧が急上昇すると、動脈硬化が進んだ血管は、血栓が生じ、裂けるなどして、心筋梗塞や脳卒中のリスクを上げる。
「今冬は光熱費の高騰があり、風呂場の脱衣場やトイレの暖房費を節約する方がいるでしょう。自宅でも寒暖差があると、血圧変動を起こしやすくなります。特に夜間のトイレに注意しましょう」と、東京都健康長寿医療センターの原田和昌副院長は警鐘を鳴らす。
温かいふとんの中から、夜中の寒いトイレへパジャマのままで行くと、気温変動に伴い血圧が急上昇しやすい。ふとんから出たらセーターなどの羽織物を着て、トイレも暖房で暖かい状態にするのがベターだ。夜間のトイレ回数をなるべく減らすのも方法のひとつである。
「前立腺肥大症の方のように頻尿の症状がある方は別ですが、高血圧に利尿薬を服用し、そのために夜間にトイレに行く方は、利尿薬の服用のタイミングを変えることで、夜間のトイレ回数を減らすことは可能です」
高血圧の薬はいろいろだ(別項参照)。中でも利尿薬は、排尿量を増やして、水分と一緒に塩分を排出することで、血圧を下げる作用がある。他の薬と併用して降圧効果をより得られることから、幅広く活用されている。だが、尿量が増えるため、夜間のトイレ回数が増えてしまうこともある。
「一般的に加齢に伴い夜間高血圧も起こしやすいので、利尿薬など降圧薬は寝る前に服用するように勧められています。しかし、最近の論文では、寝る前に薬を飲んでも飲まなくても、心血管イベント発生にあまり差はないと報告されているのです」
正常の血圧変動では、日中は活動的に過ごすために高くなり、夜寝ているときは血圧が下がり、朝目覚めたときに再び血圧が上がる。夜間高血圧は、文字通り寝ているときにも高血圧の状態が続く。結果として、心臓への負担が大きくなり、朝目覚めるときにさらに血圧が上昇し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高める。それを避けるために寝る前の薬の服用が勧められてきた。しかし、最近の研究では寝る前に服用しても、結果は変わらないというのだ。
「中高年の高血圧のひとでは夜間はもともと塩分を排出しにくいので、利尿薬を夜に服用しても、あまり意味はないと考えられています。利尿薬の服用は朝起きたときにすることで、夜間のトイレ回数を減らした方が、血圧変動を起こしにくいでしょう」
ただし、自分勝手に処方された薬の飲み方を変えるのはご法度だ。まずは主治医に相談しよう。また、食生活の見直しも忘れてはいけない。
「肥満で高血圧の人は、無理のない範囲で体重を落とすことも血圧管理に役立ちます」
代表的な降圧薬の種類
- 利尿薬…体内の余分な塩分の成分(ナトリウム)を尿と一緒に排せつ
- ARB薬…血圧を上げるホルモンのアンジオテンシンIIを阻害する
- ACE阻害薬…アンジオテンシンIIへの変換を阻害する
- カルシウム拮抗薬…血管の筋肉へのカルシウムの作用を抑えて血管を拡げる