ただでさえ「1億総ストレス時代」と言われているところに降りかかってきたコロナ禍。誰がいつ鬱(うつ)病になっても不思議ではない。自分はもちろんだが、家族がなった時、どう対処すればいいのか。寄り添おうとするあまり自分が疲弊してしまうこともある。そんなとき役立つ1冊を紹介する。

井上智介氏=写真=は、大阪を中心に精神科医・産業医として活動、1万人を超える精神症状に悩む患者を診てきたという医師。大ざっぱに(rough)、笑って(laugh)生きてほしい―という思いから自らを「ラフドクター」と名乗り、ブログやSNS、講演会などで情報発信を続けている。
最新刊『どうする? 家族のメンタル不調』(集英社刊)では、心を病んだ家族とケアする自分自身のために、やっていいことと悪いこと、気を付けるべきことをQ&A形式で解説している。
家族がメンタルダウンした時、どう接したらいいかなど、教わらずに生きてきた。鬱病の人を励ましてはいけない―など断片的な情報は耳にしたことはあっても、一歩間違えば自殺につながると思えば恐くて接することもできなくなる。
そこで本書では、「家族が精神的に落ち込んでいるとき」と「自分自身がメンタル不調に陥ったとき」に分け、医学的に理想的な対処法が紹介されている。
家族に対しては、たとえばこんな感じだ。
「明らかに体調が悪そうなのに医療機関を受診してくれない」という悩みに、「不調を認めようとしないのも精神疾患の特徴の一つ」と著者。そして、精神科や心療内科への拒否反応があるなら「内科」を受診させ、そこから精神科の専門医に紹介してもらうのも1つの手だという。
「一般的に精神疾患のある人は、身体にも何かしらの症状が出ていることが多い。倦怠感や頭痛、動悸、吐き気などに悩まされているはずなので、まずは内科で診てもらうことを勧めてください」と著者は説く。
一方、家族に寄り添うあまり、疲弊してしまった場合はどうすればいいのか。「昼夜関係なく話し相手になることを求められる」という悩みに対して、著者はこうアドバイスする。
「自分の予定や都合をあらかじめ伝えて、『できる範囲で話を聞こうと思っている』という姿勢を見せるのです。夕食後の1時間、お茶を飲みながらなど、決まった場を設けるのも効果的です」
本書では、比較的症状の軽いケースから、暴力や自傷が絡むような深刻な症例まで間口を広くとっている。いま悩んでいる人はそれに合わせて読めばすぐに役立つし、そうでなければ最初から読み進めばいい。
「はじめに」で著者はこう語っている。
「私はきれいごとをお伝えするつもりはありません。厳しい現実をお話ししようと思います」
読み進むうちに、自然に気が引き締まる思いになる良書。一読をお勧めする。
『どうする? 家族のメンタル不調』(集英社)1650円
家族に「死にたい」と言われたら…
- まず「よく話してくれたね」と感謝する
- 「死んじゃだめだ」は禁句。「私は(・・)あなたに死んでほしくない」と伝える
- 刃物やロープ状のものなど自殺に使えそうなものは徹底的に隠す
- 旅行や音楽などで気分転換を勧めるのもNG
- かける言葉が見つからないなら、ただそばにいるだけでもいい