
20年以上にわたって夕刊フジ連載「ブラックジャックを探せ!」(金曜)を担当する医療ジャーナリストの長田昭二氏は、前立腺がんのステージ4で闘病中のいまも精力的に取材・執筆活動を続けている。最新刊『末期がん「おひとりさま」では大丈夫』(文春新書)=写真=では仕事柄、すべてを包み隠さず綴って話題を呼んでいる。その長田氏が夕刊フジ読者に伝えたいことを厳選してお届けする。
前立腺がんとの闘病生活
右肩上がりで増え続ける「前立腺がん」。毎年約1万3000人がこの病気で命を落としている。
そんな前立腺がんに、医療ジャーナリストである筆者がかかったばかりか、不覚にもがんに転移を許し、ステージ4、世に言う「末期がん」になってしまったのだ。
いまも治療継続中だが、すでに余命半年の宣告を受け、ぼんやりとゴールが見え始めてきた。そこで自身の失敗を反省しつつ、読者が同じ轍(てつ)を踏まないためのアドバイスを書きたいと考えた。ぜひ参考にしていただきたい。第1回は、前立腺がん診断までの経緯を。
検査が導いた発見の瞬間
前立腺がんの多くは早期では自覚症状がない。発見のきっかけになるのは、健診や人間ドックなどで行われる血液検査の「PSA」という腫瘍マーカーの値だ。この値が「4」を超えると、統計的に前立腺がんの危険性が高いと判定され、精密検査が奨励される。
筆者がこの検査を受けたきっかけは、真夏の炎天下で15キロのランニングをして、脱水症状による「真っ赤な尿」を見たことによる。あわてて近所のクリニックを受診したところ、「念のため」と血液検査をしてくれた。その結果、PSAが「3・5」と、正常値だが高めに出たのだ。
継続的な検査が必要となり、3カ月ごとにPSA検査を受けていたところ、数値は徐々に上昇。そのうち確実に「4」を超えるようになった。
恐怖を乗り越えた膀胱鏡検査
医師は専門性の高い検査を勧めるが、筆者は消極的だった。検査が怖かったのだ。
前立腺がんの一連の検査の中に、膀胱鏡検査がある。陰茎の先から尿道に内視鏡を入れ、尿道と膀胱内部を観察する検査だ。以前知り合いの出版社の社長がこの検査を受けて「耐えがたい苦痛だった」と話していた。
しかし、MRIの画像検査を受けると、前立腺に白く光るものが写る。そして撮影するたびに、その光源は大きくなる。状況的に見てがんの存在を疑わないことが難しい状況になってきたので、取材で知り合った東海大学医学部腎泌尿器科学領域主任教授(当時は准教授)の小路直医師の外来を訪ね、膀胱鏡検査を受けることになった。
驚きの検査結果と進化する技術
恐怖に震えながらズボンと下着を下ろして検査用のイスに座ると、お腹の上にカーテンが下される。内視鏡にゼリーを塗り、陰茎の先から挿入されていくのだが…。
結果から言うと、この検査で異常は見つからなかった。何より検査はまったく痛くなかった。
筆者を脅していた出版社社長が検査を受けた当時は「硬性鏡」という硬い棒状の内視鏡だったので強烈な痛みを伴うが、いまは「軟性鏡」というフレキシブルなカメラなので痛くないのだ。たとえるなら、胃カメラにおける鎮静剤の有無に近い。いまの膀胱鏡検査は「無痛の胃カメラ検査」に匹敵するものなのだ。
こんなに苦痛のない検査を恐れていたとは…。
次の検査段階へ
しかし、PSAは上昇を続け、画像上でもがんの存在を強く疑わせる所見が見られる。筆者の検査は「次の段階」に進むことになったのだが—。
写真=取材でお世話になった東海大学医学部に治療でもお世話になることに