認知症の人が感じる3つの痛み
認知症の人が感じる大きな痛みは3つ。1つ目は体の痛み、2つ目は精神的な痛み、そして3つ目は、実存的な痛みだ。これは、病気や老いなど、どんな人でも人生の中で社会的弱者になったときに感じるものだ。
「ご存じのように、認知症は徐々に進行する疾患ですが、診断後に急激に状態が悪化したように見える場合があります。この原因の1つとして、周囲が『認知症だからできない』といった悲観的すぎる見方をすることで、ご本人の生きる希望が奪われることが挙げられます。このような状況は、ご本人の自尊心を深く傷つけ、心理的なダメージを与える要因となります」
そう話すのは、東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長。
体の痛みへの対応が重要
すべての痛みに対処することが大切だが、とくに体の痛みは、これまで見過ごされてきたことがプログラムの運用からも明らかに。
「認知症の方は『痛み』を言葉で周囲にうまく伝えることが難しくなる場合があります。これは、痛みを感じにくくなるわけではなく、痛みを感じていてもそれを適切に伝えることが困難になるという点が重要なポイントなのです」
痛みがあるにも関わらず、暴言や徘徊(はいかい)として現れている症状だけに着目して行動を抑制することを、致し方なくやっているのが介護現場での現状だ。
BPSDケアプログラムの役割
そこでまずは実際に多い体の痛みを見つけて、それを緩和するための、介護にあたる誰もが参加できるプログラムに落とし込んで、痛みを緩和し、問題行動を少なくしていこうという目的で、世界そして日本版のBPSDケアプログラムができているという。
それでは、認知症の人の問題行動の背景にある痛みにはどんなものがあるだろうか。日本版BPSDケアプログラムのベースとなっているプログラム開発に携わった、スウェーデン・リンシェーピン大学のカタリナ・ナッガ教授が、BPSDの引き金となる背景要因をまとめた表を見てほしい。
具体的な痛みの例とアプローチ
「最も多いのが〈痛み〉ですが、腰や膝はもちろん、歯が痛い人もいるし、入れ歯が合わない人もいるし、ずっと座っているので痔が痛い人もいます」
次が「皮膚の問題」。年を取ってくると保湿ができなくなって乾燥し、掻いてしまう。そうすると傷がついて余計にイライラしてくる。
「実は皮膚のかゆみとか不快さが行動、心理症状の大きな要因になっている可能性はものすごくあるのです」
これまでは、高齢だからある程度はしようがない、とされてきた、こうしたところへのアプローチに大きな効果があるのだ。