認知症の行動・心理症状とは
興奮や暴言や歩き回りなど、認知症の人の家族や介護者を困らせることの多い「行動・心理症状」(BPSD)。これまでは薬や拘束などの手段を使わざるを得ないことも多かったが、東京都が推進するケアプログラムで行動・心理症状が減ることが証明された。共生社会の実現も視野に入れた内容を5回にわたってご紹介する。
2025年には、65歳以上の5人に1人がかかると推計されている認知症。症状は「中核症状」と「行動・心理症状」に分けられ、前者は記憶障害(もの忘れ)や見当識障害(日時や自分がいる場所などがわからなくなる)などで、社会生活や日常生活がうまく送れなくなる。
BPSDがもたらす影響
後者のBPSDは、中核症状になんとか対処しようとして現れると考えられている。以前は問題なくできていたことが少しずつできなくなる「何度も同じことを言うな」「怠けるな」などと周囲から責められるうちに精神状態が悪化し、興奮や暴言や歩き回りをしてしまったり、抑うつ・不安・無気力になってしまったりする。
BPSDは認知症である本人もつらいが、家族や介護を担う人たちを疲弊させることと、そのために介護の質が落ちることがさらに問題だ。そのため、24年1月1日に施行した認知症基本法の、“共生”という理念が絵に描いた餅だと言われてしまうことにもなっている。
認知症ケア研究の進展
認知症薬などの、認知症そのものの治療を目指す研究に加えて、対症療法とも言えるBPSDを含めた認知症のケア方法についての研究も、世界中で行われている。現在東京都が推進している「日本版BPSDケアプログラム」を開発した、東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長に、研究の経緯や理念、具体的な事例などをうかがった。
「がんの緩和ケアの重要性については知られるようになってきましたが、認知症についても緩和ケアが必要だと言われてきたのが、15年前ぐらいからです。世界的に、特にヨーロッパの学会で、認知症の緩和ケアをきちんと推奨しようという話になってきました」
認知症と「3つの痛み」
がんの緩和ケアとは、できるだけ心身の痛みを和らげて、生活の質を上げるための療法だ。西田センター長は、認知症の人には大きく分けて3つの痛みがあり、それを取り除くことでBPSDも減少してくることが明らかになったという。
認知症の人の痛みの1つは、体の痛みだ。実はBPSDの人は体の痛みを感じていることが多いことがわかっていて、次回詳述するが、これを突き止めて適切なケアをすればBPSDが減少することがわかっている。「認知症になると痛みを感じなくなるという誤解と偏見があり、そのため十分に認知症の人が抱える体の痛みに対応してこなかったという問題があります」
2つ目は、精神的な痛み。「認知症が進み認知機能が落ちていくと、環境変化によってストレスを受けやすくなります。そのストレスを強く受けることによって、落ち込み、不安を感じやすくなります」