術後の「機能温存」にこだわる前立腺がん治療の第一人者・服部一紀さん~聖路加国際病院副院長・泌尿器科部長
医療ジャーナリスト 長田昭二

高齢化が進む中、「男性のがん」の中心的存在となった前立腺がん。この病気の診断と治療、特にロボット手術において国内屈指の症例数を誇る名医を紹介する。聖路加国際病院副院長で泌尿器科部長の服部一紀医師である。その卓越した技術は業界内でも広く知られ、他の高機能病院から難度の高い症例の患者を紹介されることも珍しくない。
「私は他の先生より少しだけ早くロボット手術を始めるきっかけをいただいた分、数多く執刀できた点で有利だっただけです」と謙遜するが、“手術動画”を学会などで同業者が見られる現代において、そうした評価の信憑(しんぴょう)性は極めて高い。
服部医師が特にこだわるのが「機能温存」。がんを切除したあとの生活を少しでも快適に過ごすためには、排尿や性機能をいかにして残すか―という問題は重要だ。
「生活の質(QOL)に直結する機能は残したいが、がんの根治性を犠牲にすることも許されない。しかも、前立腺全摘術は人生で1回だけの手術で、やり直しが利かない。そこで私たちにできることは、全力を尽くすことだけなのです。平凡ですが(笑)」
服部医師が率いる同院の泌尿器科チームは、大学のような高い専門性で縛るのではなく、専門分化と役割分担を緩やかに敷くことで、お互いに切磋琢磨できる環境が整備されている。
抗がん剤治療や感染症治療も、それを専門とする診療科と連携することで、それぞれが最も得意とする治療に専念できるのが利点だ。
「そのおかげで私は比較的がんの手術に専念できていますが、今後はこれまでの経験で得たノウハウを次の世代に伝えてバトンタッチすることも考えなければと思っているんです」
落ち着いた声のトーンと柔らかな笑顔で接するその姿勢は、患者に深い安心感を与える。そんな服部医師が第一線を退くことは、患者が許してくれないだろう。
服部一紀(はっとり・かずのり)
聖路加国際病院副院長・泌尿器科部長。筑波大学医学専門学群卒業。同大学院修了。米ノースウエスタン大学留学、筑波大学講師、国際医療福祉大学教授等を経て、2014年から聖路加国際病院泌尿器科部長。22年から副院長を兼務。日本泌尿器科学会指導医・専門医。日本泌尿器科学会・日本泌尿器内視鏡学会認定ロボット支援手術プロテクター他。趣味はランニング。