交通事故死は病死とは異なる寂しさと後悔をもたらす~元プロ野球投手・入来智さん
長尾クリニック院長 長尾和宏

55歳、交通事故で突然の幕切れ
いよいよWBCが来月開幕。2月17日からスタートした侍ジャパンの宮崎合宿には、全国からスター選手を一目見ようとファンが殺到。コロナ禍を乗り越え、久しぶりのにぎわいを見せているようです。
その同じ宮崎の地で、元プロ野球投手の入来智さんが2月10日に交通事故で亡くなりました。享年55。10日午後9時50分ごろ、都城市内の信号のない交差点で入来さんの運転していた軽自動車と普通自動車が出合い頭に衝突。入木さんの軽自動車は畑に落下し大破。すぐに110番通報があり、救急搬送されましたが約2時間後に病院で死亡が確認されました。
一方、ぶつかった普通自動車は前方だけが壊れる中破で、運転手も同乗者も命に別条はありませんでした。見通しの良い交差点でなぜ?と思うかもしれませんが、交通事故は都市部の方が多いというわけでもないのです。
重症頭部外傷死の約6割が、交通事故によるもの
入来さんの死因は、重症頭部外傷と発表されています。
頭部外傷とは、外部から頭に何らかの衝撃が加わることで頭蓋骨や脳などに損傷を来すことをいいます。わが国の死因別の死亡統計では、頭部外傷での死因は、「不慮の事故」に含まれます。頭部外傷死の約6割が、交通事故によるものです。また、死に至らなくとも交通事故による頭部外傷で重度の後遺障害が残り、人生が大きく変わってしまう人もたくさんいます。
警察庁の発表によれば、2022年のわが国の交通事故死者数は2610人。前年比で1%(26人)減となり、6年連続で減少傾向にあります。それでも、1日あたり7.15人が亡くなっている計算になります。
僕も、大切な身内を交通事故でなくした人間です。病で亡くすのとはまた別の苦しみと後悔が、心に一生残るものです。
さまざまな葛藤を経て第二の生き方を探していた
入来さんは、2001年のヤクルト時代に自己最多の10勝を挙げて優勝に貢献。その後韓国、台湾でもプレーをし、04年に引退。球界から離れたものの「野球以外に何をしたらいいかわからない」と苦しみ、転職を重ねた日々もあったとか。現在は介護士をされていました。さまざまな葛藤を経て、第二の生き方を探していた55歳の突然の人生の幕切れに、ご家族はやるせない気持ちでいっぱいでしょう。
同じく元プロ野球選手で「入来兄弟」として活躍し、現在はオリックスの投手コーチをされている弟の祐作氏は、兄の出棺のときに「行くぞ!」と声をかけて涙したそうです。ライバルでもあり続けたであろう兄弟の絆が、この一言に凝縮されているように思いました。