追悼

お父さんは世界一かっこいい!3人の娘に見守られた最後~ミュージシャン・鮎川誠さん

公開日:2023-03-31
更新日:2023-04-04
お父さんは世界一かっこいい!3人の娘に見守られた最後~ミュージシャン・鮎川誠さん
コラム・体験記
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パパ好き3人娘が決めた「ロック葬」


自分らしいお葬式がしたい…。海洋散骨葬から宇宙葬まで、葬儀の在り方が多様化しています。しかし願っているだけでは希望の形はかないません。

葬儀に関しても、最期をどこでどう生きたいかを話し合う「人生会議」同様に、元気なうちからご家族と、どのように行いたいか、誰を呼びたいのかを話し合っておく必要があります。

しかしこの方の娘さんたちは、話し合わずともお父さんの気持ちを全部理解していたように感じました。人気ロックバンド、シーナ&ロケッツのギタリストでミュージシャンの鮎川誠さんが、1月29日に都内のご自宅で亡くなりました。享年74。死因は、膵臓(すいぞう)がんとの発表です。鮎川さんは、昨年5月に膵臓がんで余命5カ月と診断を受けたそうです。

 

最愛の妻、シーナさんをステージで感じながら


本人の希望から公表はせず、治療を続けながら全国ツアーを決行されました。バンドのボーカルであった最愛の妻、シーナさんが2015年に子宮頸がんで亡くなられましたが、その後も、「ステージに立っているときが一番妻を近くに感じる」と公言しており、音楽をやめることはありませんでした。

昨年11月のライブのMCでは(この時点ですでに余命を乗り越えていますね)、「シーナがいつも俺達を守っています。天国に行った人は天国でロックしよるし、地上におるもんは、ちょっとのあいだでももったいない、その時間、全部ロックにつぎ込もうぜ!」と語っていました。残りの時間を自覚し、一秒たりとも無駄にせず完全燃焼したい、そんな気迫が伝わる言葉です。

死の翌日、長女の陽子さんはこんなツイートしています。

「最後の1カ月間、娘3人で交代しながら家で一生懸命看病していました。ぜったい良くなるって信じていたのに、回復の願いが叶わず、悲しくてしかたがありません。 お父さんは世界一かっこいいロッカーでした。 応援してくださった皆様、ほんとうに感謝しています」

 

ゆかりの街、下北沢は喪服のロッカーたちで黒ずくめに


死後も娘さんたちは奔走されたのでしょう、シーナさんのときと同様、「ロック葬」が2月4日に執り行われました。芸能関係者900人、一般参列者3100人の計4000人以上が参列し最寄り駅まで長蛇の列ができるほどで、鮎川さんゆかりの街、下北沢は喪服のロッカーたちで黒ずくめになったそう。もはや葬儀ではなくフェスですね。ギターを抱いた遺影も、3人娘さんが相談して決めたのだとか。

「ロックの好きなベイビー」たちが「パパが大好きな娘」に成長し、天国のママの元へしっかり見送ったようです。
 

「健活手帖」 2023-02-13 公開
解説・執筆者
長尾クリニック院長
長尾 和宏
医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。健活手帖の連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。