「孤独死」ではない、「孤高の死」~元プロ野球選手・門田博光さん

「孤独死」ではない、「孤高の死」~元プロ野球選手・門田博光さん
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病床の母の言葉から野球を始める


笑顔が素敵な選手でした。辛い経験が多い人の方が、笑顔が輝くのはなぜでしょうね…。

小学校6年生のとき母親が他界。「あんたは病弱だから野球か水泳を」という病床の母の言葉から、野球を始めたそうです。野球をしている間だけは、辛い現実を忘れられるから夢中になったのだとも語っていました。

やがてその少年は、野球がうまくなれば金持ちになれると知り、社会人野球選手となり、工場で働きながらプロを目指します。人一倍練習を重ねて、ドラフト2位で南海へ。その後、長距離打者として活躍し、通算567本のホームランを記録。王貞治さん、野村克也さんに次いで歴代3位の金字塔を打ち立てるほどのヒーローに。その門田博光さんが死去されました。享年74。報道によれば、門田さんは兵庫県赤穂郡の別荘地に住み、2016年から透析治療を受けるため同県相生市まで通院を続けていたそうです。

 

透析治療で全身に負担?


1月23日に治療に現れなかったことから、病院が相生警察署に連絡。翌24日に警察官が自宅を訪れると門田さんが倒れていて、その場で死亡が確認されたとのこと。死因はあきらかにされていませんが、報道の通りだとすれば、もう7年ほど透析治療をされていたことになり、かなり全身の各臓器に負担がかかっていたのではと推測します。

透析患者の死因1位は、実は腎不全ではなく、心血管疾患です。心臓突然死になる割合も、非透析患者と比べて25倍以上も高いという報告があります。

心臓突然死に至る原因はいくつかありますが、透析を続けていると血中のリンの排出量が減り代謝のバランスが悪くなるため「血管の石灰化」が起こります。これによって血管が硬くなり、動脈硬化や心不全、心筋梗塞のリスクがどうしても高くなってしまうのです。そのため、リンを含む食べ物をなるべく避けるよう食事指導もされます。

医療の進歩によって、わが国の透析患者の寿命はどんどん延びています。10年以上続けている人も珍しくありません。しかし長く続けるほどに、全身に大きな負担がかかることも知っておかねばならないでしょう。

 

「一匹狼」で闘い続けた人生


門田さんは2年前のインタビューで、「友人はいません。ローンウルフです」と語っておられました。ネットでは「孤独死」という言葉も散見されますが、病院が機転を利かせたため、すぐに発見されたようでよかったです。誰もがあの世に行くときはひとり。孤独死というよりも、「孤高の死」と書きたいところ。一匹狼で人生を闘い続けた男は、最期までレジェンドでした。

「健活手帖」 2023-02-06 公開
解説・執筆者
長尾クリニック院長
長尾 和宏
医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。健活手帖の連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。