追悼

晩年まで愛と音楽に満ちた人生だった~ミュージシャン・高橋幸宏さん

公開日:2023-03-31
更新日:2023-04-02
晩年まで愛と音楽に満ちた人生だった~ミュージシャン・高橋幸宏さん
コラム・体験記
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大切な人が亡くなったとき世界は色を失う


数多のアーティストが心から追悼の言葉を述べています。あらためて、この人が音楽界にどれほどの影響を与え続けてきたのかがわかりました。そして坂本龍一さんは、コメントを発表せず代わりに、灰色一色の画像をTwitterに投稿されていました。

本当に大切な人が亡くなったとき世界は色を失ってしまう。そう、松本隆さんが『君は天然色』で書いた詞のように。

サディスティック・ミカ・バンドやYMOなどで世界的に活躍されたミュージシャンの高橋幸宏さんが1月11日に亡くなりました。享年70歳。死因は、誤嚥性肺炎との発表です。

 

脳腫瘍の手術後も淡々と充実した日々


「2020年夏に判明した脳腫瘍の摘出手術は成功裏に終わり、その後は復帰に向け度重なる治療と入退院を繰り返しながらリハビリに真摯に向き合ってきました。昨年11月よりは自宅にて療養しておりましたが、年末から容態が悪化し帰らぬ身となりました。本人は元より家族親族と最善を尽くしてまいりました。なによりも携わっていただいた医療関係者の皆様に深く感謝致します」と妻の喜代美さんがコメントを発表しています。

脳腫瘍は、わが国の年間罹患(りかん)率は人口10万人あたり20~30人といわれています。頭痛や嘔吐(おうと)、身体片側の麻痺や痺れ、ふらつき、言葉が出にくい、片目が見えづらくなる等の初期症状があります。

脳梗塞や脳出血のときとほぼ同じ症状ですが、脳腫瘍の場合はこれらが急激ではなく徐々に現れてくることが特徴です。思い当たる人はすぐに脳の検査に行ってください。

 

「過去よりも今よりも…1時間後の方が新しくて面白い」


高橋さんは2020年の手術と治療を経て退院した後、病状の経過を時々Twitterで報告されていました。淡々と治療に向き合い、淡々とお仕事をされていた様子です。また、家族に子犬を迎え、優しく彩られた軽井沢の日だまりの中、一緒に散歩する写真をアップすることも。

大病をされた後に、犬や猫を飼う人は結構多いです。散歩に出かけたり童心に帰って戯れる時間は、生きる希望を与えてくれます。何より笑いが生まれます。2021年5月のTwitterではこんなつぶやきがありました。

「過去よりも、たった今よりも、1時間後の方が新しくて面白い何かがあると思っている、じゃ無ければ今まででの自分が嘘になりそう。いや、なるな」

充実した日々であることがうかがえる言葉です。そして最後のつぶやきは約半年前の昨年6月。

「みんな、本当にありがとう。 fromユキヒロ #allyouneedislove #愛こそすべて #ありがとう」

愛と音楽に満ちた人生に拍手を。

「健活手帖」 2023-01-30 公開
解説・執筆者
長尾クリニック院長
長尾 和宏
医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。健活手帖の連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。