「間違いなく、いい女」
たとえばスナックで見知らぬオッサン同士、肩を並べて酒を呑んでいると、往年の大女優(昨今、俳優と書かないと怒られるようですが、リスペクトを込めて女優と書かせてください)の話題で盛り上がることがあります。秋吉久美子が一番美人だった、いや風吹ジュンのほうがかわいかったね、いやいや池上季実子が最高だよなんて、好き嫌いを勝手気ままに言い合うわけですが、満場一致で「そう!間違いなくいい女だ!」と言わしめる女優、それがこのひとでした。
今村昌平監督の映画『楢山節考』(1983年)で緒形拳さん相手に見せた悲哀あふれる濡れ場が今も忘れられません。エロスと母性を兼ね備えた(こんなこと書いたらまた怒られるやろか…)女性に、やっぱりオッサンは弱いものなのです。
女優でタレントのあき竹城さんが、昨年12月15日に都内の病院で亡くなりました。享年75。死因は、大腸がんとの発表です。
闘病公表しない「優しさ」
最近テレビで見なくなったなと思っていたら、2年ほど前から闘病生活に入られていたとのこと。しかし、がんのことを一切公表されていなかったそうです。「元気なあき竹城でご挨拶したい」と本人が希望されていたと所属事務所が発表しています。
がんになったとき、周囲の人にどこまで明かすべきか? そんな相談を、ご家族からよく受けます。とにかく、本人の意思を尊重することに尽きます。
がんになった人からよく聞くのは、「善意の押し付けが苦しい」という悩みです。サプリや健康食品を買ってこられたり、高価な民間療法や、あるいは宗教を勧められたりと、本人の心情を考えずに、自分だけが「いいことをしてあげた」気になっている。こういう人のことを「善魔」と呼びます。
誰にも病を明かさないほうが自由でいられる
善魔は至る所にいます。友人にも、家族にも。いい人なだけに厄介です。だからいっそのこと、誰にも病を明かさないほうが自由でいられる。僕も恐らく、病気になったら誰にも何も知らせないで生きると思います。
しかし、あき竹城さんの場合はきっと「周囲に気を遣わせたくない」という優しさから公表しなかったのでしょうね。
1985年、コメディアンのたこ八郎さんが、酒を呑んで海に入り溺死したとき、親友だったあき竹城さんが、「こんなことなら一回やっておけばよかった!」と号泣していたのが忘れられません。死んだとき、「やっぱり一回やっとけばよかった」と女性から弔われるなんて、男として最高の逝き方じゃないですか。今頃、天国でたこさんと杯を交わしていることでしょう。