人はなぜお酒を飲むのか? アルコールと人類の深い歴史
形成外科専門医 西嶌暁生

中高年の飲酒割合は高いまま
楽しく酔ってストレスを解消するために男性からこよなく愛されている「酒」。飲み過ぎると、美容や健康にとってはマイナスに働くものが、なぜこれほど社会に広がっているのでしょうか。
わが国の飲酒習慣や飲酒量について調査する国民健康・栄養調査によると、成人1人当たりの酒類消費量は年々減少傾向にあり、特に若年男性ではその傾向が顕著です。
一方で40、50、60代の男性では習慣飲酒者(週に3日以上飲酒し、飲酒日1日あたり1合以上を飲酒する者)の割合が高く、生活習慣病のリスクがある飲酒習慣(1日当たりの純アルコール摂取量が40グラム以上)は40代で21%(女性13.9%)、50代で19.9%(女性16.8%)、60代で19.7%(女性8.4%)と女性に比べていずれも高いです。
人類が生き残るために得た“機能”
一説では、人類が生き残るためにアルコール分解酵素が重要な役割を担ったと報告されています。地球規模の気候変動が起きて、森の木々が次々と消滅し、果実も減り、食べるものがなくなってしまう中で、運よく地面に落ちた果実を見つけても完熟して実に含まれる糖分が自然発酵し、アルコールに変化したことが多かったと考えられます。そんな中、一部の人類の祖先の体内で遺伝子に突然変異が起きてアルコール分解遺伝子を獲得し、発酵した果実を食べても酔っぱらうことなく、栄養を得ることができたというのです。
実際、今でもアフリカのエチオピア南部に住む「デラシャ」という民族はモロコシを発酵させた「パルショータ」というお酒(アルコール度数はビール程度)を主食にしています。さらに、世界遺産ギョベクリ・テペにある神殿の遺跡からは酒造りの跡が発見されており、建造のために集まった人が友好を深めていたようです。すなわち、当時の働き手としての男性は、お酒と深い絆で結ばれているのです。
飲酒による健康や美容へのリスク
だからといって、過度な飲酒を擁護しているのではなく、飲酒による健康や美容へのリスクから目を背けていけません。対応策の1つとして、ノンアルコールビールで健康を増進しつつ、酔う心地よさを得るのはいかがでしょうか。
実際、ノンアルコールビールに含まれるポリフェノールがマラソン選手の疲労回復を早めたとの報告があります。ノンアルコールワインを飲んだ人がアルコールを含むワインと同様に「高揚感」や「楽しさ」を感じて、リラックスできたとの臨床研究もあります。
お酒と強い絆で結ばれている男性は、知恵を尽くして、次世代型の飲酒法を見いだす時期なのかもしれません。
飲酒のポイント
- 男性の飲酒量は生活習慣病のリスクとなりやすい
- 人類の生き残りにはアルコール分解酵素が必要だった!?
- ノンアルコールは「健康増進」と「酔う心地よさ」で一石二鳥