「脳動脈瘤」最新治療法(5)~早期発見と適切な治療が重要、「遺伝性」にも注意を

「脳動脈瘤」最新治療法(5)~早期発見と適切な治療が重要、「遺伝性」にも注意を
病気・治療
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脳動脈瘤の原因は何か?

国内で年間1万1000人以上の命を奪うくも膜下出血は、脳動脈瘤という脳の血管に生じるコブの破裂が原因となる。脳動脈瘤があっても必ず破裂するわけではない。が、破裂リスクが高い人は、脳血管内治療などを受けて予防することが重要といえる。では、脳動脈瘤の原因はなにか。

「強いストレスや高血圧が脳動脈瘤を悪化させますが、それらが脳動脈瘤の原因かどうかは明らかになっていません。遺伝性の患者さんは一部で、大多数の人は知らぬ間に脳動脈瘤ができ、脳ドックで偶然見つかるケースです」と、東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座の村山雄一主任教授は説明する。

転倒して頭をぶつけたときなど、たまたま受けたMRI(磁気共鳴画像診断)検査で脳動脈瘤が見つかるのが、一般的なパターン。転倒による頭部障害はなくてほっとしたのもつかの間、脳動脈瘤が発見されると落胆するだろう。

5ミリ以上で破裂リスクは高まるが「必ず治療」ではない

「脳動脈瘤の破裂リスクは、コブの直径3ミリ台で年間0.3~0.4%です。ほとんどの人が経過観察で年1回の検査で済みます。4ミリ台になると0.8%。5ミリ以上になると2%以上と破裂リスクが高くなりますが、必ずしも治療が必要なわけではありません」

破裂リスクが低いときには、経過観察で済む。とはいえ、コブを大きくしないようにするため、ストレス発散や血圧の正常値へのコントロールは不可欠となる。

「遺伝性」では別の場所に新たにできる場合も

一方、「遺伝性」では、両親や祖父母の2人以上に、くも膜下出血や脳動脈瘤の患者がいるような場合で、発症リスクも高くなる。まさに、遺伝的に脳動脈瘤になりやすい体質なのだ。

「遺伝性の人は、早めに脳ドックで脳動脈瘤の検査を受けることが大切です。遺伝性の場合、脳動脈瘤の治療を行っても、別の場所に新たにできる可能性があります。私たちは、治療から数年後、脳動脈瘤が別の部位に再び生じた症例のコンピューター解析による予測研究を世界で初めて報告しました」

コブの大きさ、形状、血管の部位でリスクは変わる

脳動脈瘤の治療は進展し、破裂リスクが高いコブは適切に治療することでくも膜下出血を予防できる。また、偶然、脳動脈瘤が見つかったからといって、破裂リスクが高いとは限らず、経過観察で済む人も多い。破裂リスクは、瘤の大きさや形状、生じた血管の部位などに左右される。

「私たちは、1万人以上も診断・治療をしている経験から、予測する国際的な共同研究を進めています」

国際的な研究で破裂リスクがより明らかになれば、AI(人工知能)を活用した診断システムの構築が可能になる。正確なシステムがあれば、客観的な診断の普及に弾みもつく。

世界に誇る日本の技術を活用

「血管内治療は、脳動脈瘤に限らず、脳卒中や慢性硬膜下血腫など、脳の病気で国際的に進展しています。日本は、世界に誇る技術を持つため、新たな治療法を適切に活用することで、患者さんへのメリットが大きい。その後押しをしたいと思っています」と村山教授。

脳の病気は怖い、という先入観があるが、早期発見による適切な診断と治療で乗り越えられる時代になってきた。
 

解説
東京慈恵会医科大学脳神経外科学主任教授
村山 雄一
東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座主任教授、同大脳卒中センター長、脳血管内治療部診療部長。1989年、東京慈恵会医科大学卒。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校脳血管内治療部教授などを経て、2013年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医指導医など、多数の認定資格と役職を有す。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。