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「脳動脈瘤」最新治療法(2)~身体への負担少ない血管内治療が発展

「脳動脈瘤」最新治療法(2)~身体への負担少ない血管内治療が発展
病気・治療
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カテーテルを挿入し、血管の内側から治療

100人に5人程度の割合で発症する脳動脈瘤(りゅう)は、動脈に生じたコブが破裂すると、深刻なくも膜下出血に至る。それを防ぐために、破裂リスクの高い脳動脈瘤に対して行われる血管内治療が、近年、発展している。

血管内治療は、脚の付け根や腕からカテーテルという細い管の医療機器を挿入してコブに到達し、血管の内側から治療する。入院期間は1週間程度で、頭を開いて血管の外側から治療する開頭クリッピング術よりも、身体への負担が少なく回復が早い。

コブの中にプラチナ製のコイルを詰めステントを置く

血管内治療の「コイル塞栓術」は1990年に登場した。脳動脈瘤のコブの中へ細い糸のようなプラチナ製の医療機器を詰め、血流が入ってくるのを防ぐ。が、コブの入り口が広いとコイルが血管へ飛び出すなどして、再治療が必要になることがあった。

「コイル塞栓術の欠点を補うため、『ステント併用コイル塞栓術』が約15年前に登場しています。ステントは網目状の筒状の医療機器で、コイルを入れたコブの入り口付近にステントを置くことで、コイルが飛び出すのを防ぐことができます」と、東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座の村山雄一主任教授は説明する。

脳動脈瘤のステントは特殊な形状

「以前は、一般的にコブの入り口が広く、頭を切開して行う開頭手術の適用になったケースも、血管内治療が行えるようになりました。医療機器の進展は、身体にやさしい治療を後押ししているともいえます」

一般的にステントは、狭心症や心筋梗塞で詰まった血管を広げるときに使う筒状の医療機器として、よく知られている。この変形バージョンがステント併用コイル塞栓術で使用されている。というと、新鮮味が薄れるのだが、脳動脈瘤のステントは特殊な形状で、開発されてから10年も経っていない。

「脳動脈瘤の血管内治療は、直径1~2ミリ程度の血管内で行うことも珍しくありません。カテーテルの直径は1ミリ以下。その細さで使用できるステントが2017年に開発され、ステント併用コイル塞栓術の適用範囲が広がったのです」

開頭手術より優位の報告も

脳動脈瘤は、動脈が枝分かれした股の部分に生じることが多い。コイルを入れたコブの入り口を塞いでしまうと、枝分かれした血管の片方への血流が止まってしまう。網目状のステントならば、コイルが飛び出すのを防ぐと同時に、網目から枝分かれの血管へ血流を通すことができる。

「血管内治療は、かつて、同じような脳動脈瘤に対し、開頭手術の方が再発率は低いといわれていました。今は血管内治療の方が優位と報告されています。治療が進化していることを多くの方に知っていただきたい」

もちろん、大きさや生じた場所、形状などによっては、血管内治療よりも開頭手術の方が向いているケースもある。診断と治療法の説明を医師から聞いても、納得できず不安を抱えたときにはセカンドオピニオンを活用してほしい。

村山教授は自身が手がける最新治療について、「開頭手術と血管内治療が同時にできるハイブリッド手術室を4つ設置してフル稼働させています。脳動脈瘤の状態に合わせた適切な治療を受けていただきたいと思います」と話している。

【写真】
ステント併用コイル塞栓術のデバイス(イメージ画像)=村山教授提供
 

解説
東京慈恵会医科大学脳神経外科学主任教授
村山 雄一
東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座主任教授、同大脳卒中センター長、脳血管内治療部診療部長。1989年、東京慈恵会医科大学卒。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校脳血管内治療部教授などを経て、2013年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医指導医など、多数の認定資格と役職を有す。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。