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「こころの老化」と向き合う(4)~老人性うつの予防と治療法

「こころの老化」と向き合う(4)~老人性うつの予防と治療法
病気・治療
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老人性うつは治せる


高齢者の「こころの病」でもっとも多いのが、うつ病です。これを「老人性うつ」と呼んで、様々な治療が試みられています。認知症は、初期において老人性うつと同じような症状を示しますが、これは治せません。進行を遅らせることはできますが、現代医学をもっても治すことはできていません。しかし、老人性うつは精神科で治せるのです。

 

孤独や疎外感が原因、周囲の接し方が肝心


まずは、高齢者がうつ病に陥らないようにするには、どうすべきか。最大のポイントは、社会、人との交流を持ち続けることです。リタイア後も新しい仕事を始めたり、ボランティア活動をしたりする高齢者に、うつ病患者はほぼいません。家族と仲良く暮らしている高齢者も同様です。

孤独、疎外感がうつ病のもとなのです。「引きこもり」は、いまや若年層の問題ではなく、高齢者の問題となっています。最近、言われている、80歳の高齢者を50歳の子供が面倒をみる「8050問題」は深刻です。さらに「独居老人」という大問題もあります。現在、高齢者(65歳以上)がいる世帯のうち、「単独世帯」がなんと約750万世帯もあり、高齢者世帯全体の5割に達しています。

引きこもり、独居の先にあるのが、誰にも看取られることなく逝く「孤独死」です。

 

「睡眠、運動、食事」の生活習慣守る


社会、人とのつながりの次に必要なのが、3つの生活習慣を守って暮らすということです。3つとは、「睡眠」「運動」「食事」です。

就寝は午後11時前まで、睡眠時間は7時間以上が基本です。運動はウオーキングなどの適度な運動で十分ですが、目安は1日7000歩以上です。うつと太陽光には密接なつながりがあるとされるので、積極的に日光を浴びましょう。

食事は規則正しく、とくに夕食は午後9時前までに。暴飲は禁物です。食事そのものは、必要なビタミンやミネラルなどが不足しないように、バランスを心がけます。厚生労働省が作成した介護予防マニュアルの「うつ予防・支援マニュアル」が参考になります。

高齢者のうつ病は、「年のせいね」の一言で、家族も見過ごしがちです。一人で思い悩む場合も多いのですが、「これはヘン」と気付いたら早めに医療機関、心療内科、精神科などを受診することです。

治療はどうなるのでしょうか?

主に「薬物療法」「精神療法」「環境調整」の3つです。脳に電流を流す「電気けいれん療法」や、光を照射する「光線療法」などを行う場合もあります。うつと言っても個人差があるので、必要に応じた治療法が選択されます。

私の場合、「薬物療法」が基本ですがが、老人性うつの場合は、抗うつ剤といってもできるだけ副作用の少ない物を選択します。うつ病にはよくSSRIが使われますが、老人性うつにはセルトラリンやミルタザピンを用います。

「精神療法」というのは、患者さんの話をよく聞いて行うカウンセリングです。この場合、家族も協力し、「辛いね」などという声がけが大事です。「気のせいだ」と否定したり「頑張れよ」などと励ましたりすることは禁物です。「環境調整」は、孤独、疎外感から解放し、日常的に話し相手、家族がいる状況をつくることです。引っ越しも選択の1つです。

ともかく、日々なにかをする、出かけるなど、なんらかの活動がうつからの回復につながります。1人にして休養させるのは逆効果。周囲はなるべく「1人でなにもしない」時間を減らすように。「老い」とは、結局、動かなくなることなのです。

「健活手帖」 2023-01-27 公開
解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。