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「こころの老化」と向き合う(3)~認知症とは違う「老人性うつ」とは?

「こころの老化」と向き合う(3)~認知症とは違う「老人性うつ」とは?
病気・治療
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認知症外来受診者の5人に1人は老人性うつ


「老人性うつ」は、高齢者が陥る典型的な心の障害で、よく「認知症」と誤解されます。また、高齢者のうつ病は、若年層のうつ病とは症状が異なる場合があります。いずれにしても、体の老化ばかりではなく、「こころの老化」にも細心の注意を向けるべきです。

認知症は、「もの覚えが悪くなった」「もの忘れが増えた」などの記憶障害の発生から、本人も周囲も認識し始めます。老人性うつの場合も、同じような症状が出るため混同されがちなのです。認知症外来を受診する方の5人に1人は老人性うつだと言われます。

 

見分ける6つのポイント


では、どうやって見分けたらいいのでしょうか? 精神科医としては、次の6つのポイントに絞って判断しています。

1)発生時期と進行速度
認知症では、記憶障害は徐々に進行していきます。そのため、いつ始まったのか、はっきりしません。とくにアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の場合は、数年間かけてゆっくり進行します。

これに対して老人性うつの場合は、比較的短い期間に記憶障害をはじめとしてさまざまな症状(不眠、食欲低下、めまい、体調不良など)が発生するので、周囲の気付きは早いと言えます。

統計的には男性よりも女性のほうが発症率が高く、要因としては「配偶者との死別・離婚」「子どもの独立や離婚」「本人や配偶者、身近な人間の大病」「リタイアなど社会的役割の低下」「家庭内トラブル」などが挙げられます。

2)自責の念の有無
この違いはかなり大きなもので、うつ病の高齢者は、「自分のせいで、家族や周囲に迷惑をかけている」という自責の念が強く、ときには「死にたい」と訴える人もいます。これに対し、認知症患者には、ほとんど自責の念はなく、自死願望もありません。

3)本人の自覚の有無
認知症の場合、急に怒ったり、徘徊したりと、問題行動を起こしますが、認知機能の低下にしたがって、自分の症状に無関心になっていきます。また、物忘れを指摘されても、それを否定するようになります。

しかし、老人性うつでは自分の問題行動を自覚できるため、症状が悪化していないかどうか常に気にします。つまり、うつでは、物忘れなどに対して思い悩むのです。

4)物忘れの違い
どちらにも物忘れは見られますが、認知症の場合、例えば、晩ごはんを食べたこと自体を忘れてしまうなど、自分がしたことを忘れてしまいます。対して、老人性うつの場合は、何かのきっかけである出来事を突然思い出せなくなります。

5)妄想の違い
どちらも妄想(思い込み)を抱きますが、その「型」が違います。老人性うつの場合は、「心気妄想」(軽い病気でも自分は不治の病にかかってしまった)、「罪業妄想」(罪を犯した、警察に捕まる)、「貧困妄想」(お金がない、破産した)の3パターン。認知症の場合は、「侵入妄想」(家の中に誰かが入ってきた)、「物盗られ妄想」(物を盗まれている)の2パターンが、大きな特徴です。

6)質問に対する受け答え方の違い
認知症の方は、何かを聞かれると、見当違いの返答をします。指摘されると、取りつくろうことが多い。ところが、老人性うつの方は、考え込んでしまい、なかなか回答が返ってきません。

 

うつ病は治療法しだいで改善


以上が認知症と老人性うつの違いですが、厄介なのはうつ病を検査によって診断できないことです。

ただし、認知症は治りませんが、うつ病は治療法しだいで治せます。

「健活手帖」 2023-01-26 公開
解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。