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「こころの老化」と向き合う(2)~高齢者が陥りやすい3つの精神疾患

「こころの老化」と向き合う(2)~高齢者が陥りやすい3つの精神疾患
病気・治療
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「怒り」や「落ち込み」から老年性精神病に 

老化は体とともに「こころ」においても進みます。「昔より怒りっぽくなった」「落ち込むことが多くなった」という人は、「こころの病気」の入り口に立っています。

ヒトは年を重ねるほど「喪失体験」が増えます。リタイア、大病、離婚、配偶者・親戚・友人の死などにより疎外感や虚無感を味わうことで、精神が病んでいくことが多いのです。

高齢者の精神疾患に関しては、医学的に「老年性精神病」という言葉が使われています。また、日本老年精神医学会もあります。しかし、精神疾患の国際的かつ標準的な診断基準として用いられている「DSM―Ⅳ―TR」やWHOの「ICD―10」においては、そうしたカテゴリーはありません。これは認知症でない高齢者の「こころの病」をひとくくりにしたものということです。

では、老年性精神病にはどんなものがあり、どんな症状が生じるのでしょうか? 大別して「老人性うつ」「不安障害」「妄想性障害」の3つが典型例かと思います。

「老人性うつ」は、高齢者がもっとも陥りやすいこころの病で、認知症とよく混同されます。認知症との違いについては、別に詳しく述べますが、物忘れがひどくなっていく認知症と比べると、より落ち込みが激しく、食欲や睡眠欲などさまざまな意欲が低下したりするほか、身体的な苦痛(胃の不快感、頭痛など)を伴う場合が多いのが特徴です。

 

定年退職をきっかけに心を病む例も 

発症のきっかけとしては、定年退職による社会生活からの離脱、離婚や死などで配偶者を失う心理的ロス、家庭内トラブルによる心労などのほか、重病で身体的な機能が低下した場合などに、発症のきっかけとしては、定年退職による社会生活からの離脱、離婚や死などで配偶者を失う心理的ロス、家庭内トラブルによる心労などのほか、重病で身体的な機能が低下した場合などに、うつ症状が強く出ます。鎮痛薬や抗がん剤、ステロイド薬や血圧降下薬などの服用が誘発の要因となるケースもあります。

老人のうつ症状は、周囲には単なる老化現象にしか見えないことが多いのですが、症状が強い場合は精神科を受診すべきです。

「不安障害」には、さまざまなパターンがあります。不安感にさいなまれ、日常生活に支障をきたす場合の全般を不安障害と捉えています。具体的な疾患としては、パニック障害、社交不安障害、全般性不安障害などがあります。

「妄想性障害」にもさまざまなパターンがあります。いずれにせよ、妄想が持続することで、日常生活に支障が出ます。

妄想内容によって分類をすると、「いやがらせをされる」「家屋や敷地内に侵入される」「物を盗られる」などといった「被害型妄想」が最も多く、ほかに「嫉妬妄想」(恋人や配偶者が不貞をしている)、「誇大妄想」(自分は卓越した人間だ)などがあります。

若年発症の統合失調症の妄想に比べると、高齢者の妄想の特徴はより具体的で、日常生活でいかにもありそうなことばかりです。妄想の対象も配偶者、家族、隣人と身近です。

以上の3つ以外に「幻覚」「幻聴」も、老年性精神障害の症状の一つです。例えば、一人暮らしの高齢者が「毎晩壁を叩く音が聞こえる」などと訴えてきたりします。

 

予防には周囲との良好なコミュニケーション

これらの治療の基本は、精神科では抗不安薬や抗うつ薬のSSRIによる薬物療法です。ただ、高齢者には副作用の少ない非定型抗精神病薬を多用します。

前段階として、周囲に注意していただきたいのは、こころを病んだ人間は必ず何らかの訴えをするということ。そこに、共感をもって耳を傾けることです。日頃から周囲と良好なコミュニケーションを持っている高齢者は、精神疾患を患う確率は圧倒的に低くなります。

「健活手帖」 2023-01-25 公開
解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。