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「こころの老化」と向き合う(1)~怒りっぽくなるのを抑える3つの生活習慣

「こころの老化」と向き合う(1)~怒りっぽくなるのを抑える3つの生活習慣
病気・治療
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体とともに「こころ」も老化する 

最近の老化研究は目覚ましいものがあり、老化も病気と同じように治療できるという考え方が主流になりつつあります。遺伝子の研究により、老化が遺伝子や細胞の信号伝達などによって制御されていることが判明し、それを操作することが可能になったからです。

しかし、老化は体だけの問題ではありません。「こころ」も老化するのです。ヒトの精神は、加齢とともに変化し、衰えていきます。そして、こころと体は密接に結びついていますから、こころを健康に保つことはとても重要なのです。

年をとって起こるこころの変化の2大特徴は、「怒り」と「落ち込み」です。どちらも、ネガティブな感情ですから、健康にいいわけがありません。誰もが加齢の過程で、この2つの変化に気づくのではないでしょうか?

落ち込みの原因は、若い時に簡単にできたことができなくなること、また、定年退職などで実社会から遠ざかってしまったことなどが挙げられます。しかし、なぜ怒りっぽく、あるいは頑固になるのかは、よくわかっていません。反対に「年をとって丸くなる」という人もいるからです。

脳科学者は、加齢による怒り、頑固の原因は、経験値が増えたために、経験値が浅い自分よりも若い人間が受け入れなくなるからだと言います。何事も自分の経験と照らし合わせるようになるため、違うと思ったら譲れないというわけです。

耳が聞こえにくくなってイライラがこうじ、怒りっぽくなる場合もあります。この場合は、認知症に通じる場合があるので要注意です。認知症では怒りっぽくなるという症状が出ることが多いのです。

こうしたケースを除いて、怒りっぽくなる原因として真っ先に挙げられるのは睡眠不足です。睡眠が足りていて脳が覚醒している状態であれば、ヒトは複数のことを同時に考えることができます。しかし、睡眠不足となると、脳が低覚醒状態で情報処理できず、イライラがこうじるのです。

怒りっぽさ、頑固さを脳機能の低下と捉えるとすれば、睡眠不足の他に、食事と運動の不足も原因たりえます。例えば、女性に多い鉄欠乏性貧血は食事が原因で、疲れやすく不安感が高まり、イライラが増します。運動不足でも、同じことが起こります。

 

3つの生活習慣で感情のコントロールを

そこで、私が相談者、患者さんに勧めているのは、3つの生活習慣で、自身の感情をコントロールするということです。3つとは、「睡眠」「運動」「食事」です。

65歳で高齢者の仲間入りをしたらもちろんのこと、それ以前からも、この3点をこころがけるべきです。就寝は午後10~11時で、睡眠時間は7時間以上。1日7000歩以上を歩き、食事は規則正しく摂り、とくに夕食は9時前までに済ませ、暴飲は禁物です。この生活習慣が整っている人ほど、精神は安定し、こころの老化は進みません。

もう1つは、脳を積極的に使うことです。脳はいくつになっても学び続け、老化にはもっとも遠いとされる器官です。怒りをはじめ喜怒哀楽をコントロールする細胞は、右脳、左脳のどちらにもあります。それぞれ特有の働きがありますが、総じて、他人との接触、さまざまな経験を重ねることで発達し続けます。

とくに思考を司る脳細胞は、新しい知識を入れなければマンネリ化して衰えます。こうなると、行動はパターン化して老化はいっそう進んでしまいます。つまり、こころの老化を防ぐ最善の方法は、生活習慣を整え、いくつになっても学び続けることなのです。

「健活手帖」 2023-01-24 公開
解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。