更年期の不調は、専門医に診てもらうことはもちろんのこと、自分でできる「セルフケア」も大切です。でも、実際にどんなことをすればいいのでしょうか…。“モヒカン”がお似合いの産婦人科専門医・高尾美穂先生にお話を伺いました。
睡眠時間の確保がとても重要
——更年期の不調には、セルフケアも大事である理由は何でしょうか
「更年期の不調の症状はいろいろとありますが、データによると、更年期の平均年齢である“50歳の女性”の体の不調で多いのは、【ホットフラッシュ(汗、ほてり)】なんです。それ以外の肩こり、不眠などは、まんべんなくどの世代にもいます。つまり、更年期の不調に限らず、生活習慣が影響をしている可能性があると考えられるのです」
——更年期だけが原因ではない、ということですね?
「『眠れない』『太ってきた』『イライラする』などを訴えられる方は多いのですが、それは更年期だけでなく、他の理由も同時に考えてみることは大切です。もちろん、体調が悪ければ、更年期の専門医に相談することは大切なことです。ただ、自分でもできるケアによって改善していくことも多いのです。中でも、睡眠時間の確保は重要です」
日本の女性「メンタル」にくる
——『睡眠時間の確保』が体調改善のポイントである理由はなんでしょうか
「日本の女性の更年期の悩みは、欧米の女性に比べて、『メンタル面が多い』というデータがあります。でも、イライラするのは、更年期だけでなく、『睡眠時間の短さ』も原因だと考えられるのです。OECD加盟国の中でも日本は断トツに睡眠時間が短い。睡眠時間が足りていないと、うつ、高血圧、糖尿病のほか、女性だと乳がんに。男性だと腎細胞がんのリスクが上がるというデータもあるのです」
8時間の睡眠と“自分の時間”
——忙しい現代人は、物理的に『睡眠時間を確保する』ことは難しいと考えている人は多いので、『睡眠の質を高める』ことに注力しがちです
「睡眠医学の世界では、『睡眠の質を高める』ことは『睡眠時間の確保』にはならない、ということが分かっています。すぐに今の状況を変えられなくても、いつか夜、眠れる状況になっていたい、という考えを置いておくことは大切。1日24時間の中で、本来は、「8時間寝て」「8時間働いて」「残りの8時間は自分の好きなことをする時間」にするのが理想的なんです。でも、通勤に1時間半かかる人は、往復だけで3時間かかってしまい、その分、大事な時間を削るようになってしまう。データを見ても、睡眠時間がとれていない人は、郊外に住んでいる人の方が多いんです。簡単に引っ越すことはできなくても、体調の悪い人は健康のためにも、『8時間の睡眠時間を確保すること』を前提に、物事を考えていくことも大切です」
昼に体を動かし、夜は「手浴」
——では、睡眠時間を確保したあと、「睡眠の質を上げるためのポイント」はありますか?
「多くの人が、枕を変えるとか、“寝ている間”のことにフォーカスしがちですが、寝ているときは意識がないので、意識のある“起きている時間”を変える方が合理的。
まず、「昼間に体を動かすこと」「眠気がくる時間に、眠れる準備をしておくこと」の2つは大切です。体温が高いところから低いところへ下がることで、眠くなります。体はリズムを持っているので、昼間にしっかり動いて体温が上がれば、夜は体温が下がり、自然と眠くなるのです」
——体温が上がった後、下がるときに眠くなるのであれば、お風呂に入るタイミングも大事ですね
「家に帰って、お風呂に入ってしっかり温まってから寝るのは、ベスト。それができないときは、手を温める手浴もオススメです。手は足よりも毛細血管の数が多いんです。ためたお湯に手を入れて温めてから布団に入ると、体温が下がっていくので、眠くなってきます」
——それは手軽にできるからいいですね! 2番目の「眠気がくる時間に、眠れる準備をしておくこと」の方も詳しく教えてください
「眠くなるピークの夜11時くらいに合わせて、眠ることが大切です。眠れるためには、2つの条件があって、1つ目は『夜であること』、2つ目は『(寝る時間まで)起き続けていること』なんです。
例えば、仕事後に家に帰って、ちょっとソファーに横になって寝てしまうのは、もったいないこと。“睡眠物質”は、起きている間に溜まり続け、寝ると減ります。本当に寝たいタイミングで寝ないと、むやみに“睡眠物質”を減らしてしまうのです。『お昼寝は午後3時まで』といわれているのは、それが理由です」
——更年期あたりから、夜中にトイレに起きてしまう人も多くなり、心配になる人もいるようです
「40代以降の多くの人がそうだから、心配はいりません。ただ、起きてしまった後、眠れなくなると、睡眠の満足度は下がります。そのためにも、途中で起きてしまったときに、『今何時だろう』といって携帯電話を見ないこと、また電気をつけないことは大切です(※ただし、高齢の人は危ないので、電気をつけた方がいい)。携帯電話のブルーライトは、脳に『今、昼である』という信号を与えてしまうので、眠気が冷めてしまうのです」
——トイレ以外でも、夜中にふと目が覚めてしまうことがありますよね
「それは、「脳の状態が『休み』】」なっていないからです。寝る直前までパソコンで作業をして、交感神経が働いている状態で寝てしまうと、脳の状態は休まっていないので、ちょっとした物音でも起きてしまうんです。
夜はリラックスした過ごし方をすることが大事。例えば、寝る前に激しい内容の映像は見ない方がいいでしょう」
———高尾先生はヨガドクターでもありますが、ヨガも更年期には役立ちますか?
「ヨガに限らず、運動習慣のある人の方がうつになりにくいし、ホットフラッシュは、有酸素運動によって改善します。
ただ、ヨガは呼吸法が大事で、運動としてのメリットがあるだけでなく、直接的に心にいい影響があるのです」
——「呼吸が心に影響を与える」とは、どういうことでしょうか?
「呼吸をコントロールすることで、体の内側の状態をリラックスする状態に持っていけるし、逆に、交感神経活動を優位の状態にも持っていくこともできます。深呼吸は、ゆっくり吸って、ゆっくり吐くので、1分間の呼吸回数が減り、副交感神経が優位になります。そうすると、心拍数が落ち、腸は活発になり、汗は落ちきます。 こういったメリットがあるので、ただのストレッチよりは呼吸の状態を意識的に作れるヨガは、プラスのメリットがあるのです」
ヨガで体調も内面も整えて
——ヨガによって、体調が改善するだけでなく、内面も成長する人が多いように感じます。先生は日頃から、「ヨガの教え」も大切にされています。座右の銘は「粛々と、いま自分にできることを」とのことですが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか?
「普通に自分ができることをちゃんとやっていくことが、一番大事なことなのだと考えています。今まで医者として積み重ねてきた時間は、派手なこともなくやってきたので、『粛々と』という言葉は、すごく好きなんです。私は研修施設に勤め、大学院を卒業して博士になり、その後、大学病院の臨床を見てきて、今にいたっています。ずっと現場にいるんです。今まではそういうタイプの人がこんな風にメディアに出ることはありませんでした。でも、今は世の中的に『(実際に医療の現場にいる人による)正しい情報』を知りたいという思いが強くなってきている証拠なのかもしれません」
——地道に現場で経験を積まれている先生だからこそ、信頼度が高く、支持されているのでしょうね。今回のお話で、更年期の不調は、専門医の先生に見ていただいたり、自分でも地道にセリフケアをしたりして、上手に乗り越えていきたいと思いました
「女性が元気で、ご機嫌でいることは、男性にとっても幸せなこと。更年期の不調でイライラしてしまうと、本人だけではなく、ご家族や一緒に働く人の課題にもなってしまいます。女性が更年期に調子が悪くなることは、男性にもご理解はいただきたいのですが、女性も能動的に自分の体調を保とうとすることは大切なのですよね」
(取材・加藤弓子、撮影・酒巻俊介)
多裂筋から骨盤底筋を強化「スカイダイビング」
多裂筋を刺激し、骨盤底筋も鍛えます。ヒップアップ効果で後ろ姿も若々しく。
大殿筋から骨盤底筋を強化「ワイドヒップリフト」
大殿筋と内転筋群を同時に鍛え、下半身を強化。間接的に骨盤底筋を鍛えます。
(『いちばん親切な更年期の教科書【完全閉経マニュアル】』より)
高尾美穂(たかお・みほ)
イーク表参道副院長。産婦人科医。医学博士。婦人科スポーツドクター。ヨガ指導者。働く女性の産業医。婦人科の診療を通して女性の健康をサポートし、女性のライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、選択をサポート。アプリstand.fmで毎日更新される番組「高尾美穂からのリアルボイス」では、体や心の悩みから人生相談までリスナーの多様な悩みに回答。著書に『いちばん親切な更年期の教科書【完全閉経マニュアル】』(世界文化社)『更年期前後がラクになる! おうちヨガ入門』(宝島社)などがある。最新刊は『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)。
ちょっと前向きになるヨガ