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“食欲を抑えられない”高度肥満症の治療法は?

“食欲を抑えられない”高度肥満症の治療法は?
病気・治療
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BMI35以上の高度肥満は「痩せられない」

国内では男性の約3割、女性の約2割が肥満です(厚生労働省2019年「国民健康・栄養調査」)。健康診断で体重が多い以外に異常がなければ、病気とはいえません。肥満に伴う生活習慣病や変形性膝関節症などの病気を抱えていると、「肥満症」と診断されます。

「高度肥満(BMI=体重㎏÷身長2乗=35以上)の人は、痩せたいと思っても痩せられないケースが多い。自力での改善が難しく、無理に取り組めば心身が壊れかねません。そのサポートを行って健康に導くのが高度肥満症治療です」

高度肥満症が食欲コントロールを妨げる

こう話すのは、東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・内分泌・代謝センターの齋木厚人教授。体重が減らずに苦しむ高度肥満症の患者を数多く救っています。

「高度肥満症で食欲をコントロールできないのは、その人の努力が足りないわけでも、怠けているわけでもありません。高度肥満症という病気が、食欲のコントロールを妨げているのです。適切な医療を受けることで、健康を取り戻すことが可能です」

高度肥満症の治療法とは

齋木教授が長年実践している高度肥満症治療では、まず半年間は内科的な治療によって、食生活の見直しを行います。

1食400~500キロカロリー(1日3食)での献立の組み立て方、また、低糖質・低脂質でタンパク質やビタミン、ミネラルを補うことが可能なフォーミュラ食(マイクロダイエット)の実施なども指導。

さらに、生活改善のコツをつかむため、毎日の体重や食事、イベントを記録する「ヘルスケアファイル」の活用も、医師、看護師、管理栄養士などの同センタースタッフのサポートによって行われます。

高度肥満症の状態によっては3カ月目で治療薬も検討。その上で、半年経っても改善が難しい場合は、胃を小さくする手術(保険診療による腹腔鏡下スリーブ状胃切除術など)を行います。


胃を小さくする外科的治療だけでなく内科的治療も重要

「外科的治療では1年で30%程度体重が減り、糖尿病も60~80%の人が薬の服用が不要になります。ただし、外科的治療を行っても1~2年で再び食事量が増えてしまう方も多い。それを防ぐためには、手術前からの内科的治療が重要な意味を持ちます」

外科的な治療は効果が高いのですが、それだけに頼ると時間経過とともに体重が増える傾向が見られます。体重低下を継続するには、日々の食習慣の改善が欠かせません。

間食が多い人は治療効果半減

「食習慣は人それぞれでしょう。1日2食をしっかり食べる。あるいは、食事量は普通なのに間食が多い。そういった人の偏った食習慣を見直すことは、とても大切です。手術を行っても食習慣の改善がなければ、治療効果は半減します」

齋木教授らの研究では、高度肥満症で2型糖尿病を併発している人は、食欲を抑制する2型糖尿病の治療薬「セマグルチド」を併用すると体重が落ち、高血糖も改善しやすくなることが分かっています。

ただし、タンパク質の指標となる骨格筋や血清アルブミン、造血作用のあるビタミンB12、髪や皮膚、味覚を正常に保つ亜鉛の値が低下していました。単に体重を減らすだけでは不健康につながることもあるのです。

「フォーミュラ食で足りない栄養素は補えます。バランスを考えながらの減量が重要なことを知ってほしいと思います」と齋木教授は話します。

解説
佐倉病院糖尿病内分泌代謝センター教授
齋木 厚人
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。