うつ ストレス コラム 脳とココロの気になる話

脳とココロの気になる話(2)~「自分はできる」と自己暗示で脳をだませばドーパミン減らない

脳とココロの気になる話(2)~「自分はできる」と自己暗示で脳をだませばドーパミン減らない
コラム・体験記
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感情の原動力は「好き嫌い」

われわれは天気の良い日やいいことがあった日は、気分が良くなりウキウキした気分になるものです。その反対に、きょうは曇りで、会社でも面白くないことが続き、朝から憂鬱だということはありませんか?

感情は、すべて快と不快、満足と怒り、愛情と憎悪などと二極化されていて、私たちの心はその間を行ったり来たりします。二極化の原動力とは何かと突き詰めて考えると、好き嫌いの感情に行き着くのです。良い気分はポジティブにしてくれ、憂鬱な気分は何事もネガティブに考えてしまう心を生み出します。

社会からのストレスが感情のバランスに影響

感情の強さが大きくなりすぎた場合や、感情が平たんになった場合、感情が片方に偏りすぎた場合にも、心のバランスが崩れます。われわれの心は、血圧や脈拍数などと同じでいつも好き嫌いの間を揺れ動いていて、同じ状態に偏らないように動揺しながら平衡を保っているのです。この気分のバランスに影響を与えるのは、社会から受けるストレスや刺激です。

バランスとれなくなり気分障害、うつ病に

そうした心の中の感情のバランスが取れなくなった状態を気分障害といい、その代表がうつ病です。重症のうつ病では、抑うつ気分だけでなく、決断ができない、外出ができない、仕事が手につかないなどの社会生活に支障をきたすような症状が出ます。

うつ病には遺伝的要素が強い双極性障害と、ストレスによって生じる単極性うつ病があり、単極性うつ病にも遺伝があります。気分を左右する何かが脳の中にあって、それが少ないか多いかは遺伝によって決まっているということです。

うつ病では「好きなもの」に近づけない

好き嫌いの感情は動物にとって、行動を起こす原動力になります。単細胞生物にも、走化性や走光性といって誘引物質(例えば甘いもの)や光に向かって移動する性質があります。

われわれの原点は常に好きなものに向かって動き、嫌いなものから遠ざかるということです。うつ病では好きなものに向かって近づけという命令がうまく脳の中で伝わらないのです。

うつ病はドーパミンが欠乏した状態

生物が生き残っていくために必要な原動力は、食欲と性欲です。最低この2つがなければ、子孫を残すことができません。うつ病になると食欲と性欲が非常に低下し、最後はじっと動かなくなります。

脳のなかで欲望を引きおこすカギにドーパミンがあります。ドーパミンは神経伝達物質の一つです。脳の中には神経細胞が1000億個以上ありますが、ドーパミンを産生する細胞はせいぜい50万から100万個です。すなわち、ドーパミンが増え過ぎて困るというより、常に欠乏する状態が生まれやすいのです。うつ病はドーパミンが欠乏した状態です。

ドーパミンは年齢とともに減少

年を取ってやる気がなくなった、これ以上はあきらめた、というときは、ドーパミンが尽きた状態です。ドーパミンを産生する細胞は他の神経細胞と同じように、年を取ると減っていきます。

ドーパミンを出す方法は「脳をだます」

ドーパミンを出す方法は、「日光浴、瞑想、チーズを食べる」などと言われますが、そこそこ増やすだけで、産生する細胞が減っていくのを防止することはできません。

ドーパミン産生細胞を減らさないようにするためには、年を取らないようにするしかありません。難しいことですが、一つ方法があります。脳は非常に騙されやすいという欠点、いや長所があります。

そうです、「自分はできる、まだ若い」などと自己暗示を脳にかけるとその効果は間違いなく出ます。

自己暗示をかけるためには見かけが大切。鏡で毎日自分を見るのです。私の言葉を信じてぜひトライしてみてください。

解説・執筆者
脳外科医
氏家 弘
脳外科医。1978年、岩手医科大学卒業、東京女子医大で研修を積んだ後、2009~2017年、東京労災病院、脳神経外科部長。その間、脳神経外科手術と医工連携による医療機器の開発に没頭。2019年から氏家脳神経外科内科クリニック(東京・紀尾井町)院長を務め、鎌ケ谷総合病院でも手術を執刀する。暇を見つけては、好きなワインを傾けながら進化発生生物学に夢中になっている。