睡眠中に上気道が閉塞して呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」は、生活習慣病などの病気と関係が深い。軽度であっても、脳梗塞や心筋梗塞の発症リスクが上がることが昨年、新たにわかった。研究者の順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学の谷川武教授に話を聞いた。
睡眠中の無呼吸で睡眠の質低下、成果習慣病悪化
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome=SAS)とは、就寝中に空気の通り道が狭くなる、あるいは、塞がって無呼吸(10秒以上)になる症状のことを言う。
呼吸再開のため無意識のうちに覚醒することを繰り返し、睡眠の質を低下させ、日中の眠気や集中力の低下、生活習慣病の悪化など、さまざまな悪影響を人体に及ぼす。呼吸再開時に大きないびきを伴うが、いびきが小さいこともある。また、慢性的な寝不足から日中の強い眠気につながるが、眠気を感じない人もいる。
眠気なくても交通事故
「私たちは、20年以上も前から睡眠時無呼吸症候群の研究に取り組んでいます。その中で、日中の眠気の自覚がない人も、交通事故を起こしていました。症状が軽度であってもよくないのです」
こう話す谷川教授は、睡眠時無呼吸に関する論文を60本以上発表し、国交省の運送事業者向けの「SAS対応マニュアル」の作成などにも協力している。
軽度でも循環器の発症リスク上昇
「昨年の論文では、睡眠時無呼吸症候群が軽度でも心筋梗塞など循環器の病気の発症リスクが上がることを証明しました。定期健診に睡眠時無呼吸症候群に関わる検査の導入を目標にしています」
谷川教授らの研究では、指先に機器を装着して血中の酸素飽和度を計る「パルスオキシメトリ法」の検査データを解析。睡眠中に無呼吸になると血中の酸素飽和度が低下するため、睡眠中のパルスオキシメトリ法のデータは無呼吸の目安となる。
その結果、健康な群と比べて、睡眠時無呼吸症候群の軽度以上の群は、高血圧などの循環器の病気、心筋梗塞など心臓病、脳の細い血管が血栓で詰まるラクナ梗塞の発症リスクが有意に高かった。
治療で改善すると発症リスクを抑制
一方、睡眠時無呼吸の軽度以上の群を適切な治療で正常な状態に改善させると、循環器の病気全体の発症リスクを約16%、心臓病は約26%、ラクナ梗塞は約30%も、発症を抑制できる可能性があることもわかった。
「日中の眠気を感じなくても、睡眠時無呼吸症候群になっていれば、循環器疾患のリスクが高くなることを多くの方に知っていただきたいのです。現在、軽度の睡眠時無呼吸症候群の治療は、経過観察になっていますが、それも変える必要があると思っています」と谷川教授は話す。
日中の眠気を感じにくいのは、睡眠が十分な状態以外にも、コーヒーなどの嗜好品が関わることがある=チェック項目参照。見逃さないことが必要だ。
睡眠時無呼吸でも日中の眠気を感じにくい要因
- 多忙
- 眠気を慢性疲労と考えている
- 慢性化した睡眠不足状態で眠気を感じにくくなっている(無自覚のまま集中力や反射能力は低下している)
- コーヒーや紅茶などの覚醒効果のある嗜好品で、眠気をごまかしている
※谷川武教授の資料から