脳・脳疾患 ウォーキング 45歳から始まる動脈硬化の危機

45歳から始まる動脈硬化の危機(2)~悪玉コレステロール放置で脳梗塞リスク急上昇

45歳から始まる動脈硬化の危機(2)~悪玉コレステロール放置で脳梗塞リスク急上昇
病気・治療
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10年でプラーク形成続出

「45歳の時の頸動脈エコー検査では正常だったのに、約10年後の検査時には血管内にプラーク(こぶ)が形成されているケースが続出しました。頸動脈エコー検査を定期的に実施すると、このような変化が一目瞭然で分かりました」

日立健康管理センタ長の中川徹医師(放射線診断科)はいくつもの検査画像を見ながら、こう話す。同センタは日立製作所やグループ企業所属のうち、45歳の社員計1500人を対象に頸動脈エコー検査をオプションで行い、年数を置いてフォロー検査も実施した。

放置して脳梗塞のリスク高まる

検査に参加した河野忠彦さん(仮名)は45歳時の人間ドックで、悪玉のLDLコレステロール値(基準値70~140㎎/dl)が170近くありながら放置していた。13年後の頸動脈エコー検査では、プラークによって血管の内膜が肥厚し、その厚さは2.8ミリに達し、脳梗塞などのリスクが高まっていた。

血栓がはがれて脳に飛ぶと脳梗塞に

「プラークの中身は油の塊で、LDLコレステロールの蓄積によって形成されます。とても軟らかいので壊れやすい性質があります。壊れると、血小板がそれを修復しようしてプラークの上に血栓がかぶさり、プラークと血栓の厚さは増していきます。血栓が何かの拍子にはがれて脳の血管に飛ぶと、脳梗塞につながります」と中川医師は解説する。

また、頸動脈でこのような動脈硬化が進行していると、全身で動脈硬化が進んでいる可能性が高く、冠動脈がプラークや血栓で詰まると、心筋梗塞に発展する。

異常が判明したらすぐに治療を

「45歳の検査ですでに動脈硬化が進行している人もいれば、河野さんのように45歳の時はほぼ正常だったのに、時を経て異常が検出される人もかなりいます。大切なのは、異常が判明したら、すみやかに治療などの対策を始めることです」

河野さんは脂質異常症と診断された。症状が進行した画像を見て観念。当初は敬遠していた薬物治療を開始し、脳梗塞などのリスクを減らすことに努めている。

コレステロールすべてが「悪」ではなく、悪玉のLDLと善玉のHDLがある。

豚バラ肉やベーコン減らし、マグロ、イワシ、サバを

「LDLを増やす食品には、飽和脂肪酸という脂質があります。調理後の鍋やフラインパンに白く固まった油がそのイメージです。LDL値の高い人は、脂身の多い豚バラ肉やベーコンの摂取量を減らすようにし、その一方、常温で固まりにくい不飽和脂肪酸が含まれているマグロ、イワシ、サバなどの魚などを摂ることが大切です」と中川医師はアドバイスする。

対するHDLを増やすにはどうすればいいか。

ウオーキングと野菜、キノコ・海藻類

中川医師によると、HDLには、血管壁から余分なコレステロールを取り除き、動脈硬化を防ぐ役割が分かっている。これを増やすには、ウオーキングなどの運動が一番。食事では野菜やキノコ類、海藻類を意識して摂ることが推奨されている。

「突然死にはワケがあり、その一因は動脈硬化にあります。私どもの職場で把握した動脈硬化の症状は、日本のどこでも起きているごく一般的な症状だと思います。この検査画像を見た人は、自分にも起きるかもしれないと、捉えてください」

河野さんの血管の断面図。58歳の画像ではプラークで内臓が肥厚していた(青い部分)=中川医師提供

解説
医師、日立健康管理センタ長
中川 徹
産業医科大学卒。放射線診断科医師。1996年から日立製作所の産業医として日立健康管理センタ(茨城県日立市)に所属。メタボ対策に取り組み、副センタ長時代に独自の内臓脂肪撃退プロジェクト「はらすまダイエット」を考案。体重とカロリーの関係を科学的根拠に基づき分析し、無理なく効果的な減量方法に導いて“はらをスマートに”するダイエット術。2022年にセンタ長に就任。主な著書に『ムリせずやせる! はらすまダイエット』(河出書房新社)。
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。