心臓・心疾患 脳・脳疾患 45歳から始まる動脈硬化の危機

45歳から始まる動脈硬化の危機(1)~自覚症状のない“患者”が急増中

45歳から始まる動脈硬化の危機(1)~自覚症状のない“患者”が急増中
病気・治療
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「45歳」は動脈硬化の危機の始まり

「45歳」は動脈硬化の危機の始まりだ。それを原因として冬に増加する脳梗塞や心筋梗塞はシニア世代だけでなく、中年世代で発症するケースも少なくない。人気お笑いコンビ「なすなかにし」の那須晃行さん=顔写真=が2023年12月、43歳で脳梗塞を発症して驚いたファンも多かった。45歳の被検者のデータを収集した専門医に知られざる現状と予防策を解説してもらおう。

 

予想外の驚く結果

「脳梗塞や心筋梗塞の兆候は中年世代からすでに始まっているとの仮説から、45歳の社員に絞って集中的に検査をしたところ、予想より驚く結果が出ました」

こう語るのは、日立健康管理センタ長の中川徹医師(放射線診断科)。同施設は毎年、日立製作所やグループ企業の社員約1万6000人の人間ドックを実施。うち45歳の社員計1500人を対象に頸動脈エコー検査をオプションで行った。

その結果、約半分の社員の頸動脈で動脈硬化が進行していた。血管内でプラーク(こぶ)が形成されている人もかなりいた。

悪玉と善玉の「比率」が重要

その1人、高田知宏さん(仮名)の頸動脈は、プラークで狭くなっていた。体格指数(BMI=18.5~25未満が普通体重)は26を超え、肥満気味。悪玉コレステロールLDL値(70~140㎎/dlが基準値)が167と高かった。LDLと善玉コレステロールHDL比が4:2だった。

「LDLとHDL比が2:5を超えると、脳梗塞や心筋梗塞のリスクがあると言われており、高田さんはそれを上回る4:2だったため、危険水域にあり、脂質異常症と診断されました」と中川医師。

以前はLDLの値のみが主な判断材料となっていたが、最近ではLDLとHDL比を重視するようになってきている。

「血液中にLDLが増えると、血栓やプラークができやすくなり、脳梗塞などのリスクが高まりますが、HDLはそうしたコレステロールを回収し、血管壁にこびりついたコレステロールも取り除く役目があります。このため、HDLとの比率が重要な目安になってきています」

自覚症状ないまま動脈硬化進行

中川医師によると、LDLが“悪役”なのに対し、HDLはコレステロールを一掃する“掃除役”だという。脂質異常症はサイレントキラーとして知られる。ごく一部に顔や手足に白い斑点状ができたり、アキレス腱が厚くなったりするが、大半は自覚症状がないまま動脈硬化などが進行していく。

高田さんもまったく自覚症状がなかったが、この検査を機に薬物療法を始め、脳梗塞などで倒れるリスクから脱したという。

冒頭で紹介した那須さんのケースでは昨年12月12日、外出先で気分が悪くなり、病院に緊急搬送。脳梗塞と診断され、脳内の血管に詰まった血栓を取り除くカテーテル手術を受けた。迅速な治療で大事には至らず、今年1月退院している。

徐々に進行し、脳梗塞、心筋梗塞に

「急に脳梗塞や心筋梗塞になるのではなく、動脈硬化が徐々に進行してその発症の前段階ができます。今回の集中的な頸動脈エコー検査の結果、45歳という年齢はその後、健康長寿の人生を送れるかどうかの岐路にあることが分かりました。中年やシニア世代の男女で、頸動脈エコーを受けたことがない人は、一度受けた方がいいでしょう」と中川医師は呼び掛けている。

 

高田さんの血管の断面図。右が拡大図。中央の黒い部分が血流があるところで、狭くなっているところがプラーク=中川医師提供

解説
医師、日立健康管理センタ長
中川 徹
産業医科大学卒。放射線診断科医師。1996年から日立製作所の産業医として日立健康管理センタ(茨城県日立市)に所属。メタボ対策に取り組み、副センタ長時代に独自の内臓脂肪撃退プロジェクト「はらすまダイエット」を考案。体重とカロリーの関係を科学的根拠に基づき分析し、無理なく効果的な減量方法に導いて“はらをスマートに”するダイエット術。2022年にセンタ長に就任。主な著書に『ムリせずやせる! はらすまダイエット』(河出書房新社)。
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。