頭痛 健康寿命を伸ばす心得

健康寿命伸ばす心得(2)~たかが頭痛、されど頭痛

健康寿命伸ばす心得(2)~たかが頭痛、されど頭痛
予防・健康
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脳は痛みを感じない

われわれが「痛い」と分かるのは知覚神経のためですが、脳には100億以上の神経があっても、手足にあるような知覚神経はありません。脳腫瘍ができようが、脳出血を起こそうがすぐに痛みは分かりません。脳内で知覚神経があるのは、脳を囲んでいる硬膜と太い脳血管だけです。

脳は頭蓋骨に囲まれ、脳脊髄液の中に浮いている器官です。胃や腸は、食べるとお腹が膨(ふく)らむため、いっぱい食べてもせいぜいお腹が苦しい程度です。脳は頭蓋骨で囲まれているので膨らむことはできません。脳腫瘍や脳出血などは、専門用語で「占拠性病変」といって、頭蓋骨の中である容積を占め、正常な脳を圧迫してしまいます。大きくなった病変は頭蓋骨の中の脳脊髄液圧を上げ、膨らむことで硬膜を圧迫し、知覚神経が刺激され痛いのです。

低気圧で脳圧が下がると頭痛が起きる

ところで、二日酔いや天気の悪いとき(低気圧)の頭痛を経験したことがある方は多いと思います。二日酔い頭痛は、アルコールの利尿作用による脱水で脳脊髄液が静脈へと流れすぎ、脳圧が下がって、硬膜が内側へ引っ張られる刺激で起きます。

低気圧は体にかかる空気の重さが軽くなったことと同じ状態です。台風では30㎜Hgも気圧が下がり、悪天候でも5~10㎜Hg気圧は下がります。すると体を押す空気の圧は下がり、皮膚の表面を流れている静脈が流れやすくなり、静脈圧は下がります。その結果、脳脊髄液が脳の静脈へと流れやすくなり、ひいては脳圧が下がり、硬膜を内側に引っ張る引力が生じて頭痛が起きるのです。

脳腫瘍の頭痛は脳圧の上昇が原因

その反対が脳腫瘍です。横になると脳脊髄液の流れの勾配が減るため脳脊髄液は流れづらくなり、脳腫瘍+脳圧上昇のために硬膜を圧迫して頭痛が起きるのです。

MRIなどの画像診断で脳腫瘍や脳出血などの器質性病変がある場合には、脳神経外科にかかる必要があります。

脳圧以外の原因なら厄介な“頭痛持ち”

MRIなどで異常が認められない頭痛が、厄介な“頭痛持ちの頭痛”です。このタイプの頭痛は、硬膜の血管に炎症のある片頭痛、頭部を支える筋肉の慢性的緊張や筋膜炎による緊張型頭痛、そして神経痛の3種類に分かれます。

片頭痛と緊張型頭痛

片頭痛は5割以上で両親どちらかが片頭痛を持ち、前兆のあることが多く、拍動性の頭痛で痛みのために頭を動かせなくなります。緊張型の頭痛は同じ姿勢での長時間の机上での仕事やそれによる肩こり、運動不足が原因で引き起こされます。神経痛は痛みの場所を正確に指で指すことができ、頭皮に触れただけでも痛いことがあります。

緊張型頭痛は、片頭痛と違って頭を動かし、運動することで改善されることがあります。いずれの頭痛も痛みへの感受性が高まり、痛みを恐れるあまり逆に痛みを記憶して、頭痛が起きやすい状態になっています。

脳動脈瘤でクモ膜下出血に要注意

最後に怖い頭痛を説明します。脳の血管に脳動脈瘤というコブがある場合です。コブが破裂するとクモ膜下出血を引き起こし、意識を失って救急搬送されることになります。そうした患者さんの約3割には前兆があります。いつもと違う突然に起きた頭痛がなかなか治まらない、痛くて頭を下げられない、下肢の力が抜ける、目がかすむという症状がそれです。「これからクモ膜下出血を起こすぞ」という警告頭痛です。すぐ脳外科医を受診してください。

時々あってすぐに忘れる頭痛の場合、まず安心して大丈夫です。クモ膜下出血は、脳動脈瘤がない人には起きないので自分自身はどうか、MRAで調べておくと良いでしょう。

解説・執筆者
脳外科医
氏家 弘
脳外科医。岩手医科大学卒業、東京女子医大で研修を積んだ後、2009~2017年、東京労災病院、脳神経外科部長。その間、脳神経外科手術と医工連携による医療機器の開発に没頭。2019年から氏家脳神経外科内科クリニック(東京・紀尾井町)院長を務め、鎌ケ谷総合病院でも手術を執刀する。