心臓・心疾患 健康寿命を伸ばす心得

健康寿命を伸ばす心得(1)~緊急手術は減ったものの死亡率が下がらない心血管疾患への対処法

健康寿命を伸ばす心得(1)~緊急手術は減ったものの死亡率が下がらない心血管疾患への対処法
予防・健康
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ゴッドハンドとして知られる脳外科医で、医学全般から生物学まで知識が豊富な氏家弘医師が、健康寿命を延ばすために必須の知見をお届けします。

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心血管疾患の緊急手術は減少

毎年冬は脳卒中の緊急手術が増え、脳神経外科医は忙しくなるのが常でしたが、この傾向が変わってきました。緊急を要する高血圧性脳内出血による開頭手術と脳塞栓症に対する血栓回収術が減っているのです。

薬と外科手術の進歩で、高血圧も脳塞栓症もかなり予防できるようになった上、高血圧性脳内出血の手術は降圧剤の新薬開発の結果、激減という状況です。また脳塞栓症も原因となる心房細動のカテーテルアブレーション(不整脈の起始部をカテーテルで電気的に焼灼)による治療、抗凝固薬の進歩で急激に減っています。

長らく死亡原因ワースト3にいた脳卒中は減って、1位は悪性新生物(がん)、2位心疾患、3位が老衰で脳血管疾患は4位です。では、心血管疾患に対する薬物治療、ステントなどの血管内外科治療も飛躍的に進歩しているのに、なぜ心疾患の死亡率は低下しないのでしょうか。

心臓は「再生」せず、がんもほぼ発生しない

心臓にはほかの臓器にはない大きな特徴があります。心臓の原基は体内で受精後22日目には、拍動を始め、死ぬまで一度も休むことなく、1分間に約60回収縮と拡張を繰り返し、体じゅうに血液を送り出します。心臓の筋肉である心筋細胞は、生まれてから死ぬまで再生することなく、ほぼ寿命と同じ年まで生きるのです。

再生しないので、心臓にがんが発生することはほぼありません。心臓1回の拍動で送り出す血液量は約60ml、握りこぶし程です。グーパーを1分間に60回、10分以上続けてみてください。疲れてきますが、心臓は全く疲れないで動いています。

私たちは運動をすると、筋肉に乳酸がたまって筋肉痛を起こします。骨格筋の筋細胞は乳酸を代謝することはできませんが、心筋は糖質などの栄養分に加えて乳酸も代謝することができます。さらに、心臓の動脈には心臓が拡張するとき、血圧の低い状態で血が流れるので、血圧の影響が冠動脈には起きません。

「過保護」な心臓、なぜ疾患が起きるのか

心臓は生きていくために最も大切な臓器です。

祖先が原始時代に生きたときを想像してみてください。猛獣から逃げるとき、狩猟に行くとき、心臓から血液がどっと体じゅうに流れたに違いありません。でなければ骨格筋は素早く動けませんから。心臓は緊急時に備えて血液を大量に送り出すため、自律神経系の中でも交感神経、すなわちアドレナリンに素早く大きく反応するようにできているのです。

アドレナリンは興奮したときもドッと出ます。精神的ストレスのかかったとき、血圧が上がったり、ドキドキしたりするので、アドレナリンが出た状態を認識することができます。

このように、心臓は血圧から保護され、栄養状態も過保護状態なのに、なぜ心疾患が高い頻度で起きるのでしょうか。

栄養過多とストレスが心疾患の原因

心血管疾患はもともと日本人よりも欧米人に3倍以上多い病気です。原因は肥満、高脂血症、糖尿病。すなわち、心臓の血管に過栄養の血液が低い血圧で流れることによって、閉塞性血管障害が昔より起きやすくなっています。加えて、過剰なカフェイン、アルコールの摂取、水分補給の日常的欠乏が血液を濃くして、最終的に狭心症や不整脈を引き起こしてしまうのです。

日本は飽食に加えて、65歳を過ぎても働くという過重労働の時代。ストレスによるアドレナリン過剰の時代です。心臓への負担を軽減するために、寝る前の食べ過ぎ、カフェイン、アルコールの常飲、日々の脱水には十分気をつける必要があります。

解説・執筆者
脳外科医
氏家 弘
脳外科医。1978年、岩手医科大学卒業、東京女子医大で研修を積んだ後、2009~2017年、東京労災病院、脳神経外科部長。その間、脳神経外科手術と医工連携による医療機器の開発に没頭。2019年から氏家脳神経外科内科クリニック(東京・紀尾井町)院長を務め、鎌ケ谷総合病院でも手術を執刀する。暇を見つけては、好きなワインを傾けながら進化発生生物学に夢中になっている。