認知症 ウォーキング がん、認知症、糖尿病遠ざける「1日1万歩」

がん、認知症、糖尿病遠ざける「1日1万歩」(5)~「歩きながら考える」に科学的根拠あり

がん、認知症、糖尿病遠ざける「1日1万歩」(5)~「歩きながら考える」に科学的根拠あり
予防・健康
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科学者や経営者も「歩くこと」実践

呼吸器内科医の大谷義夫氏は、さまざまな病気や症状を「1日1万歩」のウオーキングで予防することを、科学的根拠を元に提唱しています。そのうち「脳の健康維持」は、その先の認知症予防にもつながるため要注目です。

歩くことで変化する景色を目にし、有酸素運動で脳に適度な刺激を与えることができるウオーキングは、多くの科学者や経営者が「新たな発想を得る手段」として利用してきました。しかし、その取り組みは、決して気分的なものではなく、科学的に理にかなったものなのです。

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歩いて「創造性」が高まった

米スタンフォード大学が2014年、48人の学生を対象に行った「創造性と脳」という研究があります。その中で、「数学的思考で正解を求める」と「創造性を求める」という2つの課題を出しました。窓のない室内で座って考えるスタイルと、ルームランナーで歩きながら考えるスタイルに分けて比較検証したものです。

結果を見ると「創造性を求める課題」については、ウオーキングをしながら考えた場合81%の学生でスコアが上昇し、しかもそのスコアは平均60%も上がっていた—というのです。

これをさらに詳しく検証すると、歩くことは創造性のスコアを上昇させ、その効果は歩行の後に座っても「最低16分間は持続する」という答えを導き出しています。

「60分以上歩く人」の認知症リスク低下

つまり、思考に行き詰まったらウオーキングすることが重要で、歩いている最中はもちろん、歩き終わった後も、しばらく脳は創造性に富んだ状態が持続する—ということを示しているのです。

一方、「認知症」との関連についてはどうでしょう。東北大学が65歳以上の男女約6900人を対象に行った調査をみてみましょう。

歩く時間を「1日30分未満」「30~60分」「60分以上」の3つのグループに分けて約6年間追跡調査をしています。

その結果「60分以上歩く人」のグループは、「30分未満」のグループより、認知症のリスクが28%も低かったのです。

歩くことは脳の健康に役立つ

認知症の中でもアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症は「生活習慣病予防」がリスク低減に大きく役立つことがわかっています。その意味でウオーキングが重要な役割を果たすことは間違いありません。毎日しっかり歩くことは、「脳の健康」を保つうえでも極めて重要なことなのです。

1日1万歩のウオーキングは、糖尿病、肺炎、がんの予防にも役立ち、ご紹介したとおり、脳の健康に役立つことが「科学的根拠」を持って示されています。

高血圧、腎臓病、肥満、サルコペニア、うつや不眠にも

そして、実際にウオーキングの有効性が実証されている疾患はほかにもまだまだあります。高血圧、腎臓病、肥満、サルコペニア、さらにはうつや不眠など、広範囲な病気や症状の予防に効果を持つことが、世界中の研究機関によって報告されているのです。

歩くだけならお金はかかりません。人間の動作の中でも基本中の基本である「歩く」という健康法にいま一度、目を向けてみてはいかがでしょう。1日1万歩のウオーキングが、きっとあなたの“健康貯金”になるはずです。

解説
池袋大谷クリニック院長
大谷 義夫
池袋大谷クリニック院長。群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院、九段坂病院、国立がん研究センター中央病院などに勤務。米ミシガン大学留学を経て東京医科歯科大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授。2009年から現職。医学博士。近著に『1日1万歩を続けなさい 医者が教える医学的に正しいウォーキング』(ダイヤモンド社刊)。
執筆者
医療ジャーナリスト
長田 昭二
医療ジャーナリスト。日本医学ジャーナリスト協会会員。1965年、東京都生まれ。日本大学農獣医学部卒業。医療経営専門誌副編集長を経て、2000年からフリー。現在、「夕刊フジ」「文藝春秋」「週刊文春」「文春オンライン」などで医療記事を中心に執筆。著書に『あきらめない男 重度障害を負った医師・原田雷太郎』(文藝春秋刊)他。