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細胞分裂で進む「老化」の仕組みとエイジングケアのカギ

細胞分裂で進む「老化」の仕組みとエイジングケアのカギ
エイジングケア
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老化はどう進むのか

美容を語るには、「老化」という現象を知る必要があります。私たち人間は年齢を重ねるにつれて臓器の機能が低下して、最終的に寿命を迎えて死にます。本稿でたびたび登場する肌細胞に関しても同様です。それでは、老化はどのようにして進んでいくのでしょうか。

細胞分裂の限界は40-50回

老化は細胞分裂の繰り返しで進んでいきます。レナード・ヘイフリックは人の胎児から採取した細胞を培養し続けると、約40~50回ほど細胞分裂をすると、その後は分裂しなくなるという現象を発見しました。この現象は「ヘイフリック限界」と呼ばれています。

細胞分裂の回数が寿命を決める

さらに若者から採取した細胞は、高齢者から採取した細胞よりも分裂できる細胞が多いことがわかりました。すなわち、基本的に、細胞が分裂できる回数は初めから決まっていて、それが細胞の寿命を決めているといえるのです。どのように細胞分裂の回数は決められているのでしょうか。それには「テロメア」が関係しています。テロメアとは染色体の端にあり、哺乳類の塩基配列は「TTAGGG」が反復しています。

分裂のたびにテロメアが短くなる

テロメアは分裂のたびに短くなり、ある程度まで短くなると分裂できなくなることが分かっています。これは、染色体の異常が蓄積するのを防ぐためです。

人の体は平均すると約37兆個の細胞でできており、その中の約1%弱にあたる2000億個の細胞が毎日死んでは、それと同時に細胞分裂で新しい細胞が生まれているのです。

ストレスがテロメア減少を加速

このように「細胞の老化」と深い関わりをもつテロメアですが、その減少を加速させる大きな要因がストレスです。特に肌細胞の場合は日焼けなどによる紫外線のダメージに注意が必要です。では、テロメアはどうしたら再び長さを取り戻せるのでしょうか。

エリザベス・ブラックバーンらはテロメアを伸ばす酵素であるテロメラーゼを発見して、2009年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞しました。それならばテロメラーゼを摂取して、テロメアを伸ばしたいところですが、マウスを使った研究では、若返りはしたものの形の悪い染色体ができ、がんを誘発する結果になりました。

生活習慣がテロメアを伸ばすカギ

実は私たちの最も身近にある「生活習慣」こそ、テロメアを伸ばし、アンチエイジングを行う鍵になっているのです。

(1)食事のカロリー制限、(2)適度な運動、(3)良眠とストレス処理—の3つは細胞老化のスピードを抑えるといわれています。すでに意識せずに実践している男性もいるかもしれませんが、これらの基本的な行動こそがテロメアを伸ばすためにも、健康のためにも有効なのです。

最近「幹細胞」という言葉を聞くことが増えたと思います。最初からテロメラーゼが発現している細胞は生殖細胞、がん細胞、幹細胞の3種類だけです。この「幹細胞」が今後ますます治療やエイジングケアに応用されていくことでしょう。

老化と細胞分裂のポイント

  • 一般的な細胞の寿命は「ヘイフリック限界」で決められている
  • 染色体の端にあるテロメアが細胞分裂の回数を決めている
  • 日常的な「生活習慣」がテロメアの状態に影響する
解説・執筆者
形成外科専門医
西嶌 暁生
医学博士、形成外科専門医、MBA。1984年7月7日生まれ、富山県出身。形成外科・美容医療の専門医として、10年以上、臨床と研究に従事。2019年から恵比寿形成外科・美容クリニック副院長。著書「だから夫は35歳で嫌われる~メンズスキンケアのススメ」(光文社)が発売中。