免疫力 ウォーキング がん、認知症、糖尿病遠ざける「1日1万歩」

がん、認知症、糖尿病遠ざける「1日1万歩」(3)~風邪から誤嚥性肺炎まで、ウオーキングに防止効果

がん、認知症、糖尿病遠ざける「1日1万歩」(3)~風邪から誤嚥性肺炎まで、ウオーキングに防止効果
予防・健康
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呼吸器内科医の大谷義夫氏は、毎日1万歩を歩くことでさまざまな健康効果が得られることを、エビデンス(科学的根拠)を示しています。中でも、大谷医師の専門である「肺炎」はどうでしょうか。日本人の死因第4位であり、油断ならない肺炎をウオーキングはどのようにして予防してくれるのでしょうか。大谷医師に語っていただきます。

激しい運動は免疫力を低下、軽い運動は逆に高める

アメリカでは昔から、かぜのひき始めには有酸素運動が効果的—と言われてきました。その背景には、「軽い運動をすることで免疫力が高まる」という事実があるのです。

ここで重要なのは、推奨されるのはあくまで「軽い運動」であって、息が切れるようなヘビーな運動はNGだということです。

こうしたことを裏付ける報告もあります。米ノースカロライナ州にあるアパラチアン州立大学の研究チームは、「激しい運動は免疫力を低下させ、軽い運動は免疫力を高める」という研究結果を発表しています。

ウオーキングする人は風邪の回復早い

さらにカリフォルニア州にあるロマリンダ大学からは、「ウオーキングをする人はかぜをひいても早く回復する」という報告も出されており、「歩くこと」の有用性は見事に証明されたと言えるでしょう。

では「肺炎」について改めて考えてみましょう。

ご存じの通り、肺炎は細菌やウイルスが肺に入り込んで炎症を起こす病気です。この細菌やウイルスは本来、鼻や口、のど、さらには気管や気管支で防御する仕組みになっています。それが、免疫力が落ちていると防御能力が低下し、肺への侵入を許してしまうのです。

免疫力下がらなければ肺炎まで起きない

言い換えれば、免疫力さえ下がらなければ、細菌やウイルスが体内に入り込んだとしても、肺炎までは起こさずにすむということです。そのためにウオーキングが重要な役割を担うわけです。

国内でもこのことを証明する論文が北海道大学から発表されています。65~79歳の日本人2万2300人を対象に、12年間にわたって調査が行われ、肺炎で亡くなった人1200人とウオーキングの関係について検証しました。

1日1時間以上歩いている人は肺炎による死亡リスク低

結果を見ると、1日1時間以上歩いている人は肺炎による死亡リスクが低く、反対に1日あたり30分未満しか歩いていない人は、たとえ心筋梗塞や脳卒中の既往歴がなくても肺炎による死亡リスクが33%も高まる—というのです。

高齢者は唾液や食べ物が誤って気道に入り込みやすく、細菌などが肺に入り込んで炎症を起こす「誤嚥性肺炎」のリスクが高まります。誤嚥性肺炎は死に直結する重大疾患で、健康長寿を実現するうえで、何としても防ぐ必要があります。

誤嚥性肺炎の予防にもウオーキングを

日本呼吸器学会の診療ガイドラインには、誤嚥性肺炎の予防策として肺炎球菌ワクチンの接種と口腔ケアを挙げています。私はこれに「ウオーキング」を加えることで免疫力を高め、感染発症のリスクを下げることが重要だと考えています。

誤嚥性肺炎のリスクは50代から上昇します。予防のための「1万歩」をぜひ真剣に考えてみてください。

解説
池袋大谷クリニック院長
大谷 義夫
池袋大谷クリニック院長。群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院、九段坂病院、国立がん研究センター中央病院などに勤務。米ミシガン大学留学を経て東京医科歯科大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授。2009年から現職。医学博士。近著に『1日1万歩を続けなさい 医者が教える医学的に正しいウォーキング』(ダイヤモンド社刊)。
執筆者
医療ジャーナリスト
長田 昭二
医療ジャーナリスト。日本医学ジャーナリスト協会会員。1965年、東京都生まれ。日本大学農獣医学部卒業。医療経営専門誌副編集長を経て、2000年からフリー。現在、「夕刊フジ」「文藝春秋」「週刊文春」「文春オンライン」などで医療記事を中心に執筆。著書に『あきらめない男 重度障害を負った医師・原田雷太郎』(文藝春秋刊)他。