災害時の低体温症を避け暖を取るコツとは

災害時の低体温症を避け暖を取るコツとは
コラム・体験記
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冬の災害現場で恐ろしい「低体温症」

救出活動や2次避難が難航する能登半島地震で、改めて冬場の災害時における「低体温症」のリスクが指摘されている。地震や津波の被害を免れても、厳しい寒さにさらされ、深部体温(体表ではなく体内の温度)が35度以下になると低体温症となり、重症化すると意識消失や死亡の危険性もある。

18度以下に長時間…で誰もがなり得る

「低体温症の危険は、寒冷期の被災地だけとは限りません。被災していなくとも、気温が18度以下の場所に長くいると、誰もが低体温症になりうるのです」

こう語るのは『地震・台風時に動けるガイド:大事な人を護る災害対策』の著者で、国際災害レスキューナースの辻直美さんだ。悪寒がして、体がぶるぶる震え始めたら黄色信号。「シバリング」と呼ばれ、筋肉を細かく震わせることで熱を作り出そうとしているが追いつかず、息苦しくなったり、意識が遠のいたりするという。

25度前後+加湿が重要

「WHOは冬の室内温度を18度以上にするよう、強く勧告しています。いくら光熱費が高騰しているからといってやみくもに節約するのはおすすめできません。25度前後になるよう、加湿もしながら部屋を暖めてください」

つまり「屋内なら安心」「被災地でなければ関係ない」は大きな誤解。それどころか、厚生労働省が過去10年間を振り返ったデータによると、そもそも「熱中症よりも、低体温症のほうが多い」というから驚きだ。実際のところ、7割が屋内で発症。そのうちの8割が高齢者だった。

低体温症を防ぐ「すみやかに温めるべき場所」とは

低体温症を防ぐには「すみやかに温めるべき場所」の把握が欠かせない。(1)首のうしろ(2)手首(3)足首(4)脇の下(5)足のつけね—のすべてを温めるのがポイント。これらは熱中症のときに「冷やすべき場所」でもあるので、覚えておくと良いと辻さんはアドバイスする。

「災害時には、新聞紙で暖をとることができます。そのまま体に巻くのではなく、まんべんなくくしゃくしゃにもみ、首や手首、足首に巻き付けてください。空気の層をつくるのがコツ。普段の生活の中でも、足元が冷えるときなどに試しておくと、万が一のとき役立ちます」

洋服の重ね着、効果的な着方

洋服の重ね着も、実は工夫が必要だ。辻さんにると「インナー、ミドルウエア、アウターの順に3枚重ねる」が基本中の基本。服と服の間に空気の層をつくることで、体内で発生した熱が服の内部に留まり、保温される。直接肌に触れるインナーは吸汗速乾性能が高いものを選ぶのがコツ。綿素材のものは汗をよく吸収するものの、“汗冷え”で体温を低下させるため、防寒対策を見据えたインナー選びには不向き。

一方、ミドルウエアの役割は外部からの冷気を遮断し、体内から発生した熱を内部で貯め込むこと。空気の層をつくりやすい素材を選ぶことで体温で暖まった空気が服と服の間にたまり、暖かさを維持しやすくなる。

事前に試してみる

さらに、アウターは防水や防風、透湿に重要な役割を果たす。空気の層ができやすいように、余裕のあるサイズを選ぶことも重要。

「フィット感が強すぎると、空気の層がなくなり保温しにくくなります。購入の際は、試着して動きやすさも確認してください」

新聞紙の活用も服選びも「試しにやってみる」が防災スキルの向上につながる。うまくいっても失敗しても、遊びのような気持ちでトライしておくと、明日の自分を助けてくれる。

執筆者
老年学研究者
島影 真奈美
ライター/老年学研究者。1973年宮城県生まれ。シニアカルチャー、ビジネス、マネーなどの分野を中心に取材・執筆を行う傍ら、桜美林大学大学院老年学研究科に在籍。近著に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)、『親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと』(WAVE出版)。