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大人のアトピー性皮膚炎、患者の7割が知らない「新薬」とは?

大人のアトピー性皮膚炎、患者の7割が知らない「新薬」とは?
エイジングケア
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新薬の登場で長期間“良い状態”を維持可能

乾燥した空気で肌がカサカサしてかゆくなりやすく、仕事のストレスなどが重なると、無意識のうちに肌をかくことはありませんか? 気づいたときには血がにじみ、肌は赤く炎症を起こし、さらにかゆみが増すといった悪循環に陥ります。ひどいときには、顔を含めた全身に湿疹が及ぶことは珍しいことではありません。

このような症状を引き起こす原因に、大人のアトピー性皮膚炎があります。

「アトピー性皮膚炎の治療法は、現在、新薬の登場で長期間良い状態で維持することができるようになりました。しかし、知らない人が多い。それが問題だと思っています」

こう指摘するのは、ひふのクリニック人形町(東京都中央区)の上出良一院長。大学病院時代から数多くの診断・治療を行う一方、患者の情報交換場「アトピーカフェ」の開設。インターネット動画も駆使して病気・治療の正しい知識の普及に力を注いでいます

「脱ステロイド2世」問題も深刻

「大人のアトピー性皮膚炎では、知識不足による『脱ステロイド2世』問題が深刻です。ステロイド剤を使わない親御さんの意向によって、お子さんのアトピー性皮膚炎が悪化し、重症化しているケースがあるのです」

かつてアトピー性皮膚炎の治療では、炎症を抑えるステロイド剤に頼った時代がありました。約半世紀も前にステロイド剤を乱用したことで、皮膚が薄くなる、止めると悪化するなど副作用が報告されました。それを受けて、医療機関ではステロイド剤の使用について工夫をするようになっています。

「ステロイド剤は、適切に使用することでアトピー性皮膚炎の症状を抑えることができます。しかし、なかなか理解されず、皮膚科を受診せずに民間療法に頼り、お子さんの症状を悪化させてしまうケースは珍しい話ではないのです」

新薬が続々登場

アトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド剤頼みの時代が長く続いたため、副作用を嫌う人の医療機関受診を阻む壁となっていました。しかし、医療は進展しています。2018年には、作用機序(作用するメガニズム)が異なる生物学的製剤の「デュピクセント」(皮下注射)がアトピー性皮膚炎の治療薬として登場しました。その後、新たに注射薬は2種類、2020年には「ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤」の内服薬が発売され、翌年には新たな内服薬2種類も発売されました。そうした新しい情報が、受診していない人にしっかり届いていなかったのです。

成人のアトピー性皮膚炎患者を対象とした「治療実態調査」(サノフィが23年6月)では、18年以降に登場した新薬について約7割の人が「知らない」と回答していました。

「インターネット上には情報があふれているのに、正しい治療法や新薬の知識を持っていない患者さんが多いのです。正しい情報を選ぶお手伝いをしようと、当クリニックのHP(「ひふのクリニック人形町」で検索)やYouTubeで情報発信をしています」

正しい情報と知識を得ることが、病気克服の第一歩です。

解説
ひふのクリニック人形町院長。医学博士
上出 良一
ひふのクリニック人形町院長。医学博士。1973年、東京慈恵会医科大学卒。米国で2年間光線過敏症の研究に従事。東京慈恵会医科大学皮膚科学講座教授などを経て2014年から現職。診断・治療・研究のほか、YouTubeや月1回アトピーカフェを開催するなど、正しい情報発信にも力を注いでいる。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。