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この冬、脳・心筋梗塞に最大警戒を(1)~寒暖差激しく血管に大きな負担

この冬、脳・心筋梗塞に最大警戒を(1)~寒暖差激しく血管に大きな負担
予防・健康
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寒暖差が激しい冬に「サイレントキラー」動き出す

この冬は寒暖差が激しく、例年以上に脳梗塞や心筋梗塞の危険が迫っています。まさに注意報発令中といえます。その遠因は知らないうちに進むサイレントキラーの動脈硬化。どう防げばいいのでしょうか。循環器病のエキスパートとして知られ、平成横浜病院センター長(東邦大学名誉教授)の東丸貴信医師に聞きました。

「学生時代の同級生が脳梗塞で倒れ、命は助かったけど、いまリハビリ中との連絡があり、驚きました。運動部出身で、社会人になっても体を鍛えていたのに…」

こうした事例はよく耳にします。頑強な人でも脳梗塞などを発症するのはなぜなのか、東丸医師が解説します。

「運動で鍛えることと、血管をしなやかに保つことは別物です。体を鍛えていても中年になれば動脈硬化が進んでいます。筋力が落ち、顔が老け始め、髪の毛が薄くなるように、血管の弾力性が失われ、動脈硬化が進行します」

暖かさと寒さで血管の負担大、血栓できやすくなる

脈拍などはスマートウオッチで手軽にチェックできるようになりましたが、血管の中の詰まり具合が見える個人用のデバイスはまだ実用化されていません。このため、動脈硬化に対する恐怖感をなかなかイメージできない人が多いのが実情です。

しかも、東丸医師は、動脈硬化のある人や高血圧症の人にとって、寒暖差の気候が続くこの冬は特段の注意が必要だと言います。

「暖かい日には気持ちだけでなく血管も緩みます。その反動で寒い日が来ると、血圧の急上昇や大きな血圧変動で血管への負担が増します。結果、動脈硬化が進行するだけでなく、動脈硬化内壁(プラーク)を傷め、血管がボロボロになります。血栓ができやすくなり、それが脳に詰まれば脳梗塞になり、脳の血管が破れれば脳出血に心臓の冠動脈が血栓で詰まれば心筋梗塞になります」

この危機的症状の経験者がいます。首都圏に住む桜井恵三さん(70代、仮名)は、手の指の痺れの3日後に足のもつれと口角の痺れが生じました。「重い病気かもしれない」と東丸医師の外来を受診しました。

複数の生活習慣病で動脈硬化進行

「上の血圧は168/88mmHgと高く、MRI(磁気共鳴画像)検査で脳の右視床から内包後脚に脳梗塞が認められました」(東丸医師)

桜井さんの脳梗塞の画像(東丸医師提供)

桜井さんは50代のときに高血圧症と診断され、診断がついてから降圧薬を服薬していました。ただ、薬を飲むのは嫌いで、降圧薬の増量は好まず、血圧はやや高めで推移していました。

「血圧の甘いコントロールが続き、徐々に全身の血管の動脈硬化が進み、脳動脈硬化巣の一部が不安定化した。冬の寒による急激な血圧上昇と血圧の変動が生じ、血管が傷んで血栓が生じたものと考えられます。早期に受診したため、軽度の脳梗塞で済み、命も助かりました」

東丸医師が続けてこう警告します。

「高血圧症だけでなく、糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病が複数重なると、動脈硬化の進み方が早くなり、血栓もできやすくなります。シニア世代で生活習慣病を抱える人は、専門医診や健康診断で動脈硬化症のチェックを受けることが大切です」

解説
医師、平成横浜病院
東丸 貴信
1978年、東京大学医学部を卒業。日赤医療センター循環器部長、東邦大学医学部教授を経て、2017年から平成横浜病院総合健診センター長。汐留シティセンターセントラルクリニックでは非常勤で診察。東邦大学医学部名誉教授。
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。